米韓首脳会談では共同声明などで、「台湾海峡の平和と安定の重要性」や対北朝鮮での対話路線継続などが確認された一方で、文大統領も出席した米韓ビジネスラウンドテーブルで、サムスン電子、LG、SKなどの韓国企業幹部が半導体や電気自動車、燃料電池などの米国内での生産拡大に向けた400億ドルの投資計画を表明した。

 なかでも、サムスンは170億ドルを投じ半導体受託生産工場を建設する方針を明らかにした。

「ようやく韓国も半導体協力の手形を切った」。日本政府の高官はこう語る。

 軍事技術と一体の戦略物資として軍事と経済の両面で競争力の決め手となる半導体について、米国は、トランプ前政権が中国の通信大手、ファーウェイへの輸出規制を実施したのを皮切りに、自国での生産体制構築に乗り出す一方で、同盟国に対しても、サプライチェーンへの参加や中国企業への半導体や関連部品の供給を抑えることに同調を求めている。

 韓国に対してもサムスンなどが米国内に最先端工場を造ることを求めていた。

 バイデン政権になってからも、2月に、国内の製造体制強化で370億ドル(約4兆円)を投じる方針を発表。さらにバイデン大統領は半導体やレアアースなど4分野について、サプライチェーンの「脆弱(ぜいじゃく)性リスク」の点検をし、改善策をまとめるよう指示を出すなど、中国切り離しの動きを加速させている。

 4月にも安全保障上の懸念から輸出を規制する「エンティティーリスト」に、スーパーコンピューター開発に携わる中国の7企業・団体を加えた。

 今回の韓国側の決定は、これまで最大の輸出先であり、また北朝鮮への影響力を持つ中国への配慮から米国の要請に態度を曖昧にしてきた文政権が一歩、踏み出したというわけだ。

 背景には、断絶状態の南北対話の再開に向けて米国の後押しを得る外交上の思惑とともに、米中対立時代に対応した半導体戦略がある。

日本は自前路線から転換
ロジックは「3強」誘致で立て直し

 米韓会談の1カ月前に行われた日米首脳会談の共同声明でも、台湾問題での連携のほかに、気候変動や先端分野での日米連携がうたわれた。

「台湾問題ばかりが突出した印象になると、中国を過剰に刺激しかねない。薄めるために、ほかのさまざまな協力案件を盛り込んだ」(経済産業省幹部)という。