「アドラー心理学は、全人類が生涯をかけて探求し続ける価値がある思想・哲学」──自身のYouTubeチャンネルで「人生を劇的に変える本TOP1」として『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』を独自の言葉で熱弁するマコなり社長さん。そこで今回、同書共著者のライター・古賀史健さんとの対談が実現しました。古賀さんが上梓したライターの教科書『取材・執筆・推敲』を、起業家でYouTuberのマコなり社長さんはどう読んだのか。対話が進むうち、ふたりの意外な共通点が見えてきました。(構成:徳瑠里香、撮影:田口沙織)

ライターもYoutuberも、自分の言葉で遠くまで届ける「翻訳者」Photo: Adobe Stock

アドラーの思想を伝えることには、
人生をかける価値がある

古賀史健(以下、古賀) お会いするのははじめてですね。

マコなり社長(以下、マコ) 今日はよろしくお願いします。

古賀 マコなり社長さんのYouTube『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』をご紹介いただき、ありがとうございます。

マコ この2冊は、これまで読んできた膨大な本の中でも頂点にいる、バイブルでして。初めて読んだ2014年からずっと、不動の1位。10回以上読み返し、そのたびに開眼しています。会社の仲間全員にも読ませて、感想を伝え合ったりもしました。

ライターもYoutuberも、自分の言葉で遠くまで届ける「翻訳者」マコなり社長
本名:真子就有(まこ・ゆきなり)。1989年福岡生まれ。青山学院大学理工学部卒業。株式会社div代表取締役。登録者94.5万人のYouTuberとしても活躍中。学生時代からプログラミングを独学で学び、エンジニアとしてITベンチャーに勤務。在学中に起業し、複数のサービスリリースを経験。2014年よりプログラミング教育事業をスタート。2016年に開始した日本最大規模のエンジニア養成スクール「TECH CAMP」での転職成功人数は2000名以上にのぼる。2015年11月Forbes誌「注目のUnder30起業家10人」に選出された。

古賀 いやあ、嬉しいです。

マコ もともと僕の中では、岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て』という本が頂点にいたんですよ。読んだときに、自分の中にこう生きたいっていう確固たる意思が芽生えた。ひとことで言えば「自分の信念を貫いて生きろ」ってことなんですけど。それで、2012年に起業に踏み出したんです。

でも次第に、それだけでいいんだっけ? いや、ちょっと過激すぎやしないか? じゃあどこへ向かえばいいんだ? って目の前が霞んできて。

そんな最中に『嫌われる勇気』に出会った。それはもう、めちゃくちゃ刺さりましたよ、アドラーの思想が。これだああ!オレは「他者貢献」という導きの星に向かっていけばいいんだ!って。雲が晴れて、自分が向かうべき道がはっきり見えた瞬間でした。

古賀 僕も20年以上前に、『嫌われる勇気』の共著者である岸見一郎さんの『アドラー心理学入門』に出会ったとき、同じように視界が開けました。それまで漠然と考えてきたことに、パーンって言葉を与えられたような喜びがあった。

マコ 何を正しいと信じるのか。“思想”は、人生を、世の中を、まるっと変えていく大きな影響力がある。そう実感したのが「アドラー心理学」だったんです。

そこからこの思想をより多くの人に伝えなければ!という使命感に駆り立てられまして。アドラーの思想を広げる一端を担いたくて、僕はYouTubeで何十万人、何百万人に向けて発信を続けているんです。この感動を、自分の経験や知見を、広く伝え「他者貢献」したい、と。

古賀 僕にも何冊か自分の人生を変えてくれたと思える本があるんですけど、それはトップシークレットとして自分の心の中にとどめておけばよかった。でも、どういうわけかアドラー心理学は、絶対にみんなに伝えなきゃって思ったんです。

ライターもYoutuberも、自分の言葉で遠くまで届ける「翻訳者」古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター
1973年福岡県生まれ。九州産業大学芸術学部卒。1998年にライターとして独立。著書に『取材・執筆・推敲』のほか、31言語で翻訳され世界的ベストセラーとなった『嫌われる勇気』(岸見一郎共著)、『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(糸井重里共著)、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』など。構成・ライティングに『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(幡野広志著)、『ミライの授業』(瀧本哲史著)、『ゼロ』(堀江貴文著)など。2015年「書くこと」に特化したライターズ・カンパニー、株式会社バトンズを設立。2021年7月よりライターのための学校「batons writing college」を開校。

その手段が、僕の場合は本というかたちでしたけど、マコなり社長さんにとってはYouTubeだったんでしょうね。

マコ おっしゃる通り。だから僕はいま、この思想を広げることに、自分の人生をかける価値があると思っています。ビジネスで大きな売上を上げることよりも。こんなことを言うと株主に怒られるかもしれないんですけど、ほんとうに。その価値は経済的な指標では測れません。

古賀 僕も世代や得意分野が違ったら、それこそYouTubeで語っていたかもしれないなあ。

マコ それは困りますよ(笑)。だって僕がアドラーに出会えたのは、古賀さんの究極のライティングがあってこそですから。“見えない力”が一切出てこない、これでもか!というほど理論武装された、圧倒的な読みやすさ。その掛け合わせで生まれた奇跡の1冊。僕はさらにわかりやすく噛み砕いて、もっと広くこの本を手に取ってもらうために、YouTubeで発信しているんです。

古賀 お互い得意なところで、分業できていますね。

YouTuberも「取材・執筆・推敲」

古賀 マコなり社長さんはYouTubeで、淀みなく早口で畳み掛けるように話されているのがすごいなと。文章は何度も書き直せるけど、しゃべりはそうもいかないでしょう。なのに構成もしっかりしていて伝わりやすい。あれはどうやって体得されたんですか?

マコ 割と初期からいまのかたちは確立していました。ただ実は、僕も編集者兼ライターのようなところがあって。企画してテーマを決めて調べて、原稿を書いているんです。推敲もしていますし。毎週3本更新していて、2日で8000字くらいの原稿を書かなきゃいけないんで、スピード勝負ではあるんですが。原稿を読み上げるかたちで撮影して、動画を編集しています。

よく原稿を外注してるんじゃないかって言われるんですけど、そんなことは一切ない。一字一句、全部自分で書いています。

古賀 なるほど! そうなると、メインの作業は文章を書くこと?

マコ はい。これまでの2年間で400本くらいの動画を公開していて、1本6000〜1万字の原稿を書いていますね。

古賀 本にしたら30冊以上の文量ですね! もともと文章を書くのはお好きだったんですか?

マコ 昔から好きですね。小学生の頃は作文で賞をもらうこともありました。だから僕、一番つまんないのが撮影なんですよ(笑)。文章を書くまでが楽しい。書いた時点で勝負アリ、なので。まあ面倒で苦しくもあるんですけど。

たまにアドリブを入れることもありますが、徹底的な準備に勝ることはない。書くことの苦しさに負けてアドリブでいけんじゃね?って思ったこともあったけど、やっぱりおもしろくはならない。って当たり前ですけど。

古賀 マコなり社長さんは、本でもファッションでもなんでも、自分がいいと思ったものの魅力をみんながわかる言葉に「翻訳」して、動画というパッケージにして伝えている。動画をいくつも拝見して、マコなり社長さんのやっていることは、僕が『取材・執筆・推敲』で書いている「翻訳者」に近いなあと感じていたんです。でも、まさかご自身でしっかり原稿を書かれていたとは。最終的なアウトプットが、本か動画かの違いであって、やっていることはすごく近いですよね。

マコ 似ていますね。この本(『取材・執筆・推敲』)を読んだときに、あれ、オレと同じ匂いがするなって思いましたもん。ライターではない自分も例外ではなかった。結局僕も、取材、執筆、推敲をしてコンテンツをつくっているので。

古賀 そうですよね。

マコ そもそもYouTuberのマコなり社長はキャラクターであって、みんなが僕の人格だと思っているものってあらゆる人のコピーの掛け合わせなんですよ。たとえば僕は愛用しているAllbirdsの靴に対して「軽すぎて履いてないかと思った!」とか言うんですけど、こういう大袈裟な表現は、中高の同級生の真似をしていて。まくし立てるような話し方も高校の先生のスピーチがもとになっています。

自分のフィルターを通しておもしろいと思った人の要素を組み合わせて編集して、より多くの人に求められる「マコなり社長」というコンテンツをつくっているんです。

「総理大臣になるものだと思っていた」

古賀 自分がつくるコンテンツには、幼い頃から、何に触れて何をおもしろいと思ってきたかが現れますよね。

僕は幼い頃に見ていたテレビの影響が大きいんです。古舘伊知郎さんのプロレス実況の過激な話し方とか、NHKのスポーツ中継のアナウンサーの、ちょっと講談調の語り方とか。自分がおもしろいと思ったしゃべり言葉がいまも原稿にも反映されていると思います。編集の仕方は自分のオリジナルだけど、もともとの要素はみんな借りてきたものですね。

マコ そうすると、人からの影響を受けやすかったりします?

古賀 しますします。このあいだ友だちとしゃべってて思い出したんですけど、小学3年生のときの担任の先生に「古賀くんは将来、総理大臣になったらいいよ」って言われたんですよ。なんでそう言われたのかはわからない。でも僕は真に受けて、中学校3年生くらいまでずっと、ぼんやり「オレは総理大臣になるんだもんなあ」って思っていたんです(笑)。

マコ え!めちゃくちゃ影響受けてるじゃないですか!

古賀 そう。で、中3のときに悪い友だちとつるんでて停学をくらったときに、「オレの歴史に傷がついた! もう総理大臣になれないかも。これ、ぜったい将来週刊誌に暴かれるぞ」って(笑)。そこでようやく総理大臣以外の道を考え始めたくらい、人に影響されやすいですね。

マコ けっこう長いあいだ、総理大臣になると思ってたんですね(笑)。

古賀 僕はこれだ!と思うとしつこいんですよ。アドラー心理学も、本をつくってなんとか岸見先生を世に出して、みんなにこの魅力を伝えなきゃって、10年以上思い続けてきた。編集者に何度も企画を持ち込んでやっと実現したわけですが、誰かにちゃんと届くまであきらめきれない。

マコ 10年は長い……古賀さん、起業家っぽいですね。世の中にあるべきだ、必要だ、と思ったものを信じきってかたちにして広げていく。僕も事業でもYouTubeでも、同じことをやっています。

僕は最初は斜に構えているところがあるんですが、心を掴まれたら深みにハマって、その魅力を自分の言葉で語らずにはいられない。

あ、僕、YouTuberとして「はじめしゃちょー」と同じ分類で、会社の実体がないと思われることもあるんですが、ちゃんと経営している「社長」ですからね(笑)。

古賀 それはもちろん(笑)。人やモノ、コト、その根底にある思想を自分の言葉で解釈して、遠くまで届けていく。僕らは同じ「翻訳者」でもありますね。

ライターもYoutuberも、自分の言葉で遠くまで届ける「翻訳者」

(【vol.2】に続く)