今日の企業にとって最も重要な課題、それは継続的なイノベーションを起こすことだといっても過言ではない。では、それを可能にする企業文化をいかに生み出すか、すなわちイノベーションを促す企業文化へと変革できるか。さらに、危機に備えビジネスモデル変革に取り組むための経営チームのあり方とは――。書籍『有事の意思決定 一枚岩の経営チームがリードする』の教授陣にさまざまな視点から意見を伺った。連載第2回は、イノベーションに挑戦する企業経営者の行動と意思決定の指針を提示する。
平時の「思い込み」の排除が
従業員の創造性を解放する
マイケル・ロベルト教授
(ブライアント大学カレッジ オブ ビジネス)
これまで、よりイノベーティブな組織を作るには、何かを加えよというものが大半でした。つまり、創造性の豊かな人を採用しろ、新規事業担当組織を作ってスピンアウトしろ、スカンクワークの仕組みを導入しろといったことでした。
しかし、多くの企業がこれらのことを実施しているにもかかわらず、うまくいっていません。その原因は、組織に根付いた「組織的な思い込み」にあるのです。何かを加えるよりも先に、取り除く必要があるのです。
一つの例として、多くの企業が特別研究室のようなものを設置していますが、私は、これを廃止せよといっているのではありません。イノベーターは、単に集中だけしているのではなく、時には「あえて集中しない」ことも必要ということです。集中しないとは、人々の視野を広げ、目先の問題から一寸距離を置いてみるといったことです。だから、これらの活動を単に止めるのではなく、運営方法を見直せと言うことなのです。
経営者の仕事は、言ってみればゴールまでの道のりをきれいに片付けることであって、創造性豊かな賢い人々に、何をしろなどと指示する必要はないのです。
同様に必ずしもチームメンバーに答えを与えてそれを実行しろと指示するのではなく、チームを一つにまとめ、問題にアプローチする視角を考え、分析を求めるのが良いリーダーだと言えます。
日本の経営者だけに限りませんが、世界中の経営者の喫緊の課題は、今回のパンデミックや、思いがけない競争相手の出現などによって不意打ちを受けたとき、「俊敏に対応する能力」を構築することではないでしょうか。
イノベーションを成し遂げる上で、実験やプロトタイピングはとても重要で、多くの企業で実践項目に取り入れられているのですが、企業文化に根付いている「完璧主義」が問題となるのです。
実験やプロトタイピングに長けているということは言い換えれば、完璧でないことを受け入れることです。だが、これは難しい。
頭では実験やプロトタイピングの重要性を理解しても、実際に行おうとすると完璧主義が邪魔をしてしまいます。
最初から完璧なものを作ろうとすると、イノベーションのプロセスを遅らせることになります。だから、「早期に、何度でも、荒削りでも」を開発のモットーにした会社が生き残る。ある段階では完璧でないことを受け入れなければならないということです。