──実際に会ってお二人に話を聞いていると、本当に、田中さんと今野さんが「話している」なかで生まれた本なんだとすごく伝わってくるんですが、田中さんにとって、今野さんのどこがそんなに良かったのでしょうか。
今野:いやイイダさんおかしいです新婚さんいらっしゃいみたいな質問やめてもらえませんか。
田中:一緒に考えてくれるところですかね。
今野:答えるんですね。
田中:どんなことでも一緒に考えてくれて、ちょっとした議論のときでも「それは違うんじゃないですか」と僕が言ったら、「ああ、言われてみればそうかもしれないですね」と言って必ず一緒に考えてくれる。
これは前著『読みたいことを、書けばいい。』に書いてるんですけど、最初はクソ真面目な長文メールを送ってきたことから始まっているんですね。実際会ってみると、真面目すぎて髪の毛も抜けちゃったのかなって心配してたんですけど、話していくうちに、この人は「何かの結論を早急に求めようとしない人」だってわかったんです。何かの目的を達成しようとして僕に話しかけているんじゃない。そういうのがすごくわかったんです。
今野:何より、過程を楽しもうと思っていましたね。
田中:それは、言い換えると「期待する結論を相手に要求しない」ってことでもあるんです。
──どういうことですか?
田中:世の中の仕事って「これをやってくれたら10万円払います」という約束をガチガチに決めてやるのが普通ですよね。すると「相手がやってくれた仕事は果たして10万円に値するのか」って議論にもなりますし、一日遅れたら「9万円にするぞ」とか、「決めた日に持ってこなかったら、しばくぞ!」っていう思考回路になっていく。それって、結局、お互いを信頼してないってことですよね。
サラリーマンの仕事の9割9分は「お互いを信頼しない」で成り立っているんです。信頼しないから「期限を決める」「料金を決める」「やり方すら決める」。
──ああ……。
田中:たとえばファストフードは「信頼のなさ」の極みです。メニューに写真も料金もすべて載っていて、注文すると爆速で写真通りのものが出てきます。でも、信頼のある料理屋のオヤジは「今日は旨い魚が入ってるぞ」とかなんとか言って、勝手に料理が出てきて、こっちは「うまい、うまい」と言いながら食べて、料金を払う。そこにあるのは信頼だけじゃないですか。「シェフの気まぐれサラダ」は、シェフの気が乗らない日は出てこないんですよ。どんだけ気まぐれやねんと思うけど、また食べに行く。信頼ってそういうことじゃないですか。
──なるほど、たしかに、そこには信頼しかないですね。
田中:究極の信頼って「結果が出なくてもいい」だと思うんですよ。「オマエ、10万円払うんだから、結果出せよ」じゃなくて、別に結果が出なくたって今野さんのことを訴えたりしないし、今野さんもわたしのことをしばきには来ないと思うんです。
もちろん世の中のすべてがそうなればいい、と言ってるんじゃないです。そういう約束が必要な場面があるのもわかります。でも、結果が出なくても、お互いにくだらないことが言い合えるくらいのセーフティゾーンがあっても、世の中のすべてがめちゃくちゃになったりはしないはずです。
会社に集まってバカ話したり、仕事終わった足で居酒屋行ってくだらない話をしていた頃はまだそんな雰囲気もあったんですけど、だんだんそういうのは減ってきてますよね。さらに今はもうリモートの時代だから、もっとキツくなっていくだろうなと。そういうのってしんどくないかなと。そんなことを『会って、話すこと。』に込めた部分もちょっとありますね。何より、今野さんとわたしのようなやりとりでも、結局、本が二冊できあがったわけですから。
──たしかに。
(第3回に続く)
1969年大阪生まれ。早稲田大学第二文学部卒。学生時代から6000冊以上の本を乱読。1993年株式会社 電通入社。24年間コピーライター・CMプランナーとして活動。
2016年退職、「青年失業家」と称し、インターネット上で執筆活動を開始。Webサイト「街角のクリエイティブ」に連載する映画評「田中泰延のエンタメ新党」が累計500万PV超の人気コラムになる。その他、奈良県、滋賀県、広島県、栃木県などの地方自治体と提携したPRコラム、写真メディア「SEIN」などで連載記事を執筆。映画・文学・哲学・音楽・写真など硬軟幅広いテーマの文章で読者の支持を得る。
2019年、ダイヤモンド社より初の著書『読みたいことを、書けばいい。人生が変わるシンプルな文章術』を刊行。2020年、出版社・ひろのぶと株式会社を創業。
Twitter: @hironobutnk
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