みずほが、不祥事を何度繰り返しても生まれ変われず、金融庁に「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」と企業文化を酷評されるに至ったのはなぜか。その真相をえぐる本特集『みずほ「言われたことしかしない銀行」の真相』(全41回)の#24では、みずほが悪名高き「1兆円増資」の準備に追われていた2002年に時をさかのぼる。
当時は小泉政権の時代。竹中平蔵金融担当大臣が、銀行に対して強硬に不良債権の処理を迫っていた。さらに株価下落も重なって、みずほの自己資本は急減。そこで編み出されたのが、みずほの取引先企業から巨額資金をかき集める「1兆円増資計画」だった。しかし、優先株の発行によって国内取引先1000社以上から資本調達するという筋書きはひと筋縄ではいかず、取引先の不満は募っている。一方、支店現場は増資要請に追われて、新規営業に手が回らない。「奉加帳方式」とやゆされた腕力にモノをいわせた増資は、当時から後に禍根を残しかねないと懸念されていた。
目標数字必達の自己都合に
支店・取引先の両方から不満噴出
「3000億円の目標は何があろうとも達成する」。みずほ銀行のある役員は、行内に向かって檄を飛ばした。みずほグループが進めている1兆円増資計画のうち、3000億円をみずほ銀行の取引先から集めるという意味だ。
1月中旬、全国のみずほ銀行支店長は何回かに分けて本部に呼ばれ、「増資額の目標設定」を口頭で指示された。どの程度のカネが集まりそうか、支店長自らが目標額を報告書に記入し、その必達を迫られた。みずほ銀行の取引先は、個人や中堅・中小企業である。小口だけに、1社当りの最低出資額は1億円。支店長はそれを積み上げて目標数字をつくり上げる。中規模支店で10億~20億円程度、大規模支店のなかには100億円近い目標を掲げたところもあるという。
しかし、詳細は後述するが、取引先は本業不振にあえぎ、しかも銀行株下落で深傷を負っている。普通に頼んでいては、何十億円も集まるものではない。実際、最低単位の「1億円」しか集まらないと本部に報告した支店もあった。ところが、こういう支店は本部から逆に目標上積みを迫られた。
みずほ銀行による大がかりな増資打診については、「証券取引法違反ではないか」という声も証券業界から上がっている。みずほ銀行が増資を持ちかけているとみられる取引先は1000社近い。投資家が50人以上いれば目論見書の作成が必要だが、事前の打診ではなんの書類も提示されていない。
みずほ側は、「具体的な条件を示していないので、勧誘ではない」と強調するが、ある取引先は「優先株の利回りは2%以上にはなるようです」という説明を支店長から受けたという。現場の勇み足は皆無とはいえないようだ。
「3000億円は必ず達成できる」とみずほ銀行首脳は豪語するが、内実はかなり無理をしているのは間違いない。
なぜ、ここまで無理を通さなければならないのか。最大の理由は、もちろん不良債権処理の加速、株価下落による自己資本急減だが、それだけではない。