実需と供給で成り立っていない、
いびつな不動産マーケット

牧野 中古マンションを買うタイミングとしては、「これから大量相続時代が確実にやってくるので、自分の好みや考え方を買いに反映させやすくなるはず。だから慌てて買わずにね」とは思うのですが、皆さん買うときには個々の事情があるので、いたずらに待ちなさいというアドバイスはないと思うんですけど、今は買うには難しい時期ですね。

日下部 東京オリンピック後に買おうと思っていた層も、まだ溜まっているような気がします。オリンピックの延期で賃貸の契約更新をして、その契約期間の2年を終える方が2022年の春夏頃からまたドッと出てくるのかな、と。

牧野 ああ、それもあるかもしれないですね。

日下部 でも、購入を待っていた人が、「なんだよ、逆に値上がりしているじゃないか!」みたいなことになりそうです。

牧野 不動産マーケットって今、いびつなんですよ。実需と供給で成り立っていない。今のマンション需要のかなり多くを、「国内外の投資家」「転売目的の業者」「節税目的の高齢富裕層」で相当分さばけているので、今のマーケットはすごく演出されているんです。だから実需で自宅として買いたい人にとっては、わりあい不幸なマーケット。

日下部 そうでしょうね。

牧野 給与所得者の平均給与が433万円と収入が上がらない中、東京23区の新築マンションの平均価格が8000万円を超えてきている。一般庶民は絶対買えないですよね。そこで危険なのは、「すごく売れているね」「値上がりもすごいね」とマーケットに感化されて背伸びして買ってしまうような方。夫婦ダブルローンを組んでギリギリ買いましたみたいな人って、ちょっと怖いですね。必ず揺り戻しがきますよ。また下がってまた上がるのが投資マネーなので。2022年以降、ちょっと場面は変わりそうです。

日下部 場面が変わるとは?

牧野 不動産は世の中の変化の後追いなので、まずは生活が変わります。ものすごい物価高がきます。一番良くないのは円が安いということ。円安って昔は良いことだってみんな教わってきたんですけど、今の日本にとって円安はものすごく悪いこと。外国人から見ると、日本の不動産は割安だって映るわけですよね。彼らはウハウハ状態で宴をやっているにすぎないのです。でも場面は変わるんです。それは日本が円高だったときに、海外不動産を買ったのと逆の理屈です。

 あと、石油などの天然資源や食料品などの生活用品などあらゆるものが輸入なので、これらの価格は全部上がらざるを得ないんですよ。金利を上げると通貨は高くなるので、「じゃあ金利を上げればいいじゃないか」って思うんだけど、今の日本に金利が上げられる状況があるかといったら全然無いんです。

 電気代が上がる、ガス代が上がる、食料品が上がる。エンゲル係数とエネルギーコストが上がって行くということは、住宅購入にも影響します。住宅ローンの返済額の目安を年収の25%にしていたのは、昭和・平成でつくってきた理屈。でもこれだけ生活コストが上がってくると、「年収の2割以内じゃないとヤバくない?」みたいな議論が、2022年以降出てきますよ。