コロナ禍で働き方や生き方を見直す人が増えている。企業も戦略の変更やアップデートが求められる中、コロナ前に発売され「アフターコロナ」の価値転換を予言した本として話題になっているのが、山口周氏の『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
本書を読んだ人から「モヤモヤが晴れた!」「今何が起きているかよくわかった!」「生きる指針になった!」という声が続々集まり、私たちがこの先進むべき方向を指し示す「希望の書」として再び注目を集めている。
そこで本記事では、本書より一部を抜粋・再構成し、「残酷な社会で勝ち抜くゲーム」に夢中になる人が見落としがちなことをご紹介する。

もし私たちのことを「夢想家のようだ」と言うのなら、
あるいは「救いがたい理想主義者」だと言うのなら、
あるいは「できもしないことばかり考えている」と言うのなら、
何千回でも答えよう。
「その通りだ」と。
――エルネスト・チェ・ゲバラ

目の前のゲームに埋没する人々と
ますます強固になる残酷な社会システム

 今この瞬間の社会のありようを前提にして、そのなかでいかに功利的に動けばゲームに勝てるか、という問題意識に現代人の多くは囚われすぎているように思います。

 社会や組織のありようについて、その是非を問うことなく「世の中とはそういうものだ」と割り切った上で、システムを改変するのではなく、自分自身をシステムに最適化してゲームに勝つということに血道を上げる人があまりにも多い。

山口周山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ニュータイプの時代』『ビジネスの未来』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

 そのような努力の末に、めでたく高額の収入と他者からの嫉妬や羨望を勝ち取る人がいるのも事実でしょう。そして、そのような「勝ち組」といわれる人を見て「彼らと同じような努力をすれば、自分も同じようになれる」と考えるナイーブな人々がごまんといて、これが一種の「市場」として成立している側面があります。

 しかし、このような「システムに対して無批判に最適化して美味しい立場を得ようとする」オールドタイプのパラダイムには大きな問題が2つあります。

 1つ目は、現在の社会システムに適応して成功した人々を模倣し続ければ、現在の問題ある社会システムはますます強固で動かし難いものとして存続してしまう、ということです。

格差に加担することで社会はさらに残酷に

 たとえば、アメリカをはじめとして、現在の先進国では貧富の格差の拡大が深刻な社会問題となりつつあります。生み出された富が極端に偏在している、というのはもちろんシステムの機能不全によって発生している状況ですが、この状況に対して多くの人は「このように残酷な社会だからこそ、自分は拡大する『貧富』の格差のうち、『富』の側に入れるように頑張ろう」と考えて行動してしまいがちです。

 しかし、実際にその努力が実って巨額の収入を得ることになれば、それはますます「貧富の格差」を拡大・延長することになり、問題はより大きく、強く根を張ることになります。

 昨今では、高度な教育を受けたエリートの中にすら「この残酷な社会でどのように勝ち残っていくか」などという視座の低い論点を立てている人が見られますが、そもそも「残酷な社会」など誰も望んでいません。

 もし私たちの社会が「残酷な社会」なのであるとすれば、教育を受けたエリートが本当に考えなければいけないのは「残酷な社会でどう勝つか」などという卑賤な論点ではなく、そもそも「なぜ私たちの社会は残酷なのか」「どうすれば柔和で公平な社会ができるのか」という論点であるべきでしょう。

価値なき富はいずれ蒸発する

 さて、ダメなシステムに自分を最適化させるというオールドタイプの問題点として2つ目に指摘したいのが、システムはどんどん変化するので、過度の最適化はいずれ必ず適合不全を起こすということです。

 これまでの世界においてうまく機能した戦い方が、ある日突然まったく通用しなくなってしまう、ということはいつ起きてもおかしくありません。

 近年での典型事例はリーマンショックでしょう。2000年代の初頭、名門ビジネススクール卒業生の3分の1は投資銀行の門を叩き、「バラ色の人生= La Vie en Rose」ともいうべき華々しいキャリアを築こうとしました。

 しかし「初年度のボーナスが数千万円になる」という状況は唐突に終わりを告げ、世界のありようは変化してしまいました。変化する前の、いわば「旧世界のありよう」に最適化するべくスキルと知識を積み重ねてきた多くの人は、いわば「世界に裏切られ」て、野に放り出されてしまったわけです。システムに過剰に最適化しようとするオールドタイプは今後、さまざまな領域で不適合の問題に直面することになります。

 先述した通り、社会全体が役割分担をして生み出した富が一部の人にだけ極端に偏在している、というのはシステムの機能不全によって発生しています。オールドタイプは「価値よりも貨幣」を求めて仕事を選びますから、この機能不全を利用して「美味しいポジション」に場所を得ようとします。

 一方、ニュータイプは「貨幣より価値」を求めて仕事を選び、システムの機能不全を修正するために運動します。そして、ニュータイプによる運動が功を奏してシステムの修正がなされると、機能不全によって発生していた富の偏在は是正され、結果としてオールドタイプが巣くっていた「美味しいポジション」は唐突に蒸発することになります。

 ではオールドタイプはその後、どうするのでしょうか? おそらく結論は「どうしようもない」ということでしょう。だってそもそも「価値を生む」ことをやってこなかったのですから。

(本稿は、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』より一部を抜粋・再構成したものです)