安倍元総理Photo:Pool/gettyimages

アベノミクスは市場からの日本の評価を支えてきた。人口減少、高水準の公的債務、地政学リスクにうまく対応してきたとみられている。安倍元首相亡き後、市場が日本を評価・分析する上での3つのポイントを明らかにする。(クレディ・スイス証券株式会社 ウェルス・マネジメント チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパン〈日本最高投資責任者〉松本聡一郎)

市場の評価を支えてきた
アベノミクス

「世界の先頭を行く日本」と言うと語弊があるのかもしれない。しかし、日本がたどってきた困難な状況への挑戦から、世界は日本から多くのことを“Dos&Don'ts”リストのように学んできた。

 かつて、米国のリーマンショックへの対応に際しては、日本の不動産バブル崩壊に端を発したクレジットクランチへの対応が、その手際の悪さから“Don'ts”リストとして参考になったと市場では受け止められた。

 最近では、欧米の市場で日本化(ジャパニフィケーション)という造語が、懸念すべきリスクとして話題になる機会が増えてきた。これは日本のように人口減少と高水準の公的債務により、経済が長期的低成長に陥るリスクを意味している。

 実際に主要国での労働人口はピークアウトし始め、公的債務は歴史的な高水準へと膨張し続けており、市場の懸念は現実味を高めている。

 また地政学リスクでは、東アジア地域での緊張感はかつてないほど高まっており、日本はそのフロントラインに位置しているとみられている。

 10年近く、このような厳しい環境に日本は完璧ではないが、うまく対応してきたというのが、市場の大まかな評価である。

 結果として10年前には1万円を下回っていた日経平均株価は、一時3万円を超える水準まで回復した。また今年の厳しい市場環境でも、日本株は欧米と比べ持ちこたえているといえるだろう。

 この市場の評価を支えてきたのは、安倍元首相がアベノミクスとしてスタートさせた政策や構造改革に向けた取り組みであり、それを引き継いできた人々による努力だったのだろう。

 7月8日、出張先の空港で搭乗を待つ間、搭乗口脇のテレビを眺めていると、安倍元首相の銃撃が報じられていた。東京に戻り、早速マーケットへの影響をまとめたメモを海外の同僚に送った。慌ててまとめたこともあり、いろいろと厳しい質問が来ると思っていた。しかし、その反応は予想とは違い、あまりにも大きな喪失感から抜け出せないというものだった。

 改めて、安倍元首相の国際社会における存在感の大きさを再認識した瞬間だった。この存在感は、彼が日本の首相として世界が抱える問題に対処するためのルールや枠組み作りをリードしてきたからだと考えている。

 安倍元首相亡き後、市場が日本を分析、評価していく上での着目点は何か。次ページから明らかにしていく。