原油相場「ウクライナ前」まで下落、天然ガス供給不安でも上値が重い理由Photo:PIXTA

7月に入り原油相場はロシアのウクライナ侵攻前の水準にまで下落した。その後、産油国による増産が進まないことやロシアによる欧州への天然ガス供給削減など買い材料が出たものの、相場の上値は重い。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)

上海のロックダウン解除、EUのロシア産原油
禁輸決定で6月上旬までは上昇基調

 原油相場は、3月上旬に2008年以来の高値まで上昇した後、いったん下落したが、6月上旬にはWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)、ブレントともに1バレル当たり120ドル台まで持ち直した。

 しかし、7月14日には、一時WTIは90.56ドルと2月25日以来の安値となり、ブレントは94.50ドルと2月21日以来の安値とロシアによるウクライナ侵攻以前の相場水準まで下落した。その後、やや持ち直しているが、上値は重い。

 最近2カ月程度の原油相場を振り返ると、6月上旬は上昇基調で推移していた。

 6月1日には中国・上海で続いていたロックダウン(都市封鎖)が解除される運びとなり、石油需要の回復観測につながった。米国ではドライブ・シーズンを控えてガソリン需要の増加観測が根強かった。EU(欧州連合)はロシア産石油の禁輸方針を決定した。

 一方、OPEC(石油輸出国機構)と非OPEC産油国で構成する「OPECプラス」は、6月2日の閣僚級会合で増産ペースの加速を決定したが、7~9月に予定していた増産を7~8月に前倒ししたにすぎなかった。6月8日のWTIとブレントは清算値ベースで3月8日以来の高値をつけた。

 しかし、その後、相場は下落基調に転じた。10日に発表された5月の米CPI(消費者物価指数)が前年同月比8.6%上昇と約40年ぶりの伸びとなり、FRB(米連邦準備制度理事会)による大幅利上げ観測が強まった。

 15日には、FRBが0.75%の大幅利上げを決定したことを受けて、景気減速懸念が広がり、WTIは3.0%安、ブレントは2.2%安となったEIA(米エネルギー情報局)の週次石油統計で原油在庫が市場予想に反して増加したことも弱材料だった。

 16日には、スイス国立銀行と英イングランド銀行が利上げを決め、17日には、主要国での利上げによって世界景気が減速し、石油需要の鈍化につながるとの懸念が広がり、原油相場は急落した。WTIは6.8%安、ブレントは5.6%安だった。

 27日には、フランスのマクロン大統領がバイデン氏に対して、UAE(アラブ首長国連邦)のムハンマド・ビン・ザイド大統領から、UAEとサウジアラビアの原油増産余力は乏しいと伝えられたことを明かしたと報道され、28日にかけて原油相場は上昇した。

 30日には、OPECプラスの閣僚級会合で予想通りに8月も日量64.8万バレルの増産ペースを維持する決定がなされた。しかし、株価下落に連動したことや、9月以降の原油需給が不透明なこともあって、原油の下落幅はやや大きくなった。WTIは3.7%安、ブレントは1.3%安だった。

 この後、7月に入り、原油相場は下げ足を速め急落する。その後、産油国による増産ペースが上がらないことやロシアによる天然ガス供給不安などにより持ち直すも上値が重い展開が続いている。次ページから上値が抑えられている理由について解説していく。