あらゆる産業が国家の安全保障や防衛と無関係ではいられない。日本を代表する通信グループのNTTは、米中対立に端を発していち早く安全保障の意識を高めてきた企業の代表格だ。台湾周辺での軍事的な緊張が高まる中、日本の重要インフラの担い手は有事にどう備えているのか。特集『軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦』(全25回)の#13では、通信とサイバーセキュリティの事業者で、安全保障問題の論客でもあるNTTの澤田純会長に聞いた。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
通信インフラの安全保障
本質的な議論はまだ行われていない
――ウクライナでの戦争と台湾有事の懸念で、国内で安全保障の議論が高まっています。民間企業の経営者としてどんな認識をお持ちですか。
ウクライナのハイブリッド戦(軍事攻撃とサイバー攻撃や情報戦を組み合わせた戦い)を見ていると、もう国の安全保障という概念が、軍事という非常に狭い領域の議論ではなくなってきていると思います。
経営者としては、安全保障というものが軍事だけではなく、経済、文化、情報、新技術のほとんど全てのものに関係するという意識を持つべきではないでしょうか。
もともと通信は軍事で最も重要な役割を占めるので、自衛隊の通信網をNTTが手伝ったりしてきましたが、今後は、災害も含めた「有事」に通信が切れないように、あるいはすぐに復旧できるようにするミッションが、これまで以上の役割として加わっていると感じます。
――KDDIの通信障害では社会インフラが大混乱しました。これをみても通信インフラの重要性が増していますが、安全保障の観点から対策は十分でしょうか。
KDDIの事故は他山の石です。通信大手3社とも大きな事故を起こしているので各社対応をしています。ただ、色々な想定をしても、それを超えるような“外部条件”が出てきてしまいますので、いずれまた故障を起こさないとも限らない。
だから通信障害は、起こってしまった事故の範囲を限定して、いかに早く復旧できるかが課題になってきています。災害のような有事の場面では、事業者間で「横」の連携が大事になっているので、その一つとして、総務省が中心になってローミング(契約する通信事業者のサービス提供範囲外でも通信サービスが受けられる)の議論を進めているのでしょう。
しかし、今のローミングの議論は現行の法体系での議論なので、本当に戦争のような有事を想定した安全保障の議論をするなら、総務省だけではなく、国全体で議論を行うことが必要になるでしょう。
通信だけ頑張っても電気を止められたら基地局が倒れます。これでミサイルを撃たれたらもうどうしようもない。本質的な安全保障の議論はまだ行われているとは言えません。そこに踏み込もうとすれば、これまでにない領域の議論に踏み込まなければならないのではないでしょうか。
「経営者自身が安全保障の意識を高めるべき」との考えを示した澤田氏。国の重要インフラを担う事業者として、日本の安全保障をどう考えるのか――。澤田氏は、サイバー攻撃への備え、宇宙空間を活用した新技術、さらには経済安全保障への対応について、余すところなく語った。