ベンチャー支援はメガバンクグループにとって、新たな“金脈”だ。投融資のリターンが相対的に高い上、オープンイノベーションに熱心な大企業との接点拡大のチャンスにもなる。特にみずほ銀行は、ありとあらゆる支援体制を講じる。特集『3メガバンク最終決戦!』(全9回)の#7では、みずほ銀でスタートアップ支援を約10年にわたってけん引してきた大櫃直人常務執行役員に、奥が深いスタートアップビジネスの将来性や、みずほ銀における事業展望を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 新井美江子)
一気に成長し、一気に市場を取らねば勝てない!
スタートアップの資金需要が旺盛な理由
――メガバンクは大企業1社に数千億円単位で融資することがあります。それと比べるとスタートアップは小粒過ぎて、資金支援に注力するのは割に合わないのではないでしょうか。
今のスタートアップって、あっという間に成長するんですよね。
昔の日本企業は、階段を上るようにして大きくなっていきました。野球で言うと、ピッチャーで4番、おまけに主将までやっています、みたいな異能の人が社長として会社を率い、「ステップを1段上っては踊り場で呼吸を整え、またもう1段上っては整える」みたいなことを繰り返して成長していった。
あえて踊り場を作ることで、従業員の教育や各種体制の整備、あるいは次の投資資金の確保などを行っていたのだと思います。そうして50年、100年かけて徐々に規模を大きくしていったわけです。
ところが今のスタートアップは、Jを描くようなカーブで急成長していく。なぜならば、技術の進歩や世の中の変化のスピードがものすごく速くなっているからです。かつてのように踊り場を作りながら成長していては、競争に負けてしまう。一気に成長し、一気に市場を取っていかないと、勝ち残ることができない。
――なるほど、昔の中小企業と比べて資金需要も各段に高いわけですね。どんどん投資して、どんどん成長しないと勝てないから。しかし、急成長するスタートアップの投融資判断はどのように行っているのでしょうか。
スタートアップの皆さんと専門的な技術論を交わすのは、残念ながら銀行員には難しいものがあると思います。それは、技術の専門知識を持ったベンチャーキャピタル(VC)の知見にお任せした方がいい。みずほ銀行はスタートアップ支援を10年前から行っているので、有力なVCとの連携体制が整っています。
他方で、銀行員はボードメンバーの力量に関する目利きを行っていくべきだと思っています。銀行員は、いろいろな経営者と本当にたくさんお会いする機会があるので、そこには一定の目利き力があると自負しています。胆力、時代を読む力、人を巻き込んでいく力など、力量のある経営者がどういう方々なのかを、経験から知っている。
ちなみに、力量を見るときは社長のみならず、チームとしての力量も見るのがポイントです。
スタートアップというと、メガバンクが資金支援に熱心になるには小粒過ぎるように思える。しかし実は、一昔前のいわゆる「中小企業」とは全く“別物”の存在。むしろ、メガバンクにとって新たな金脈とさえいえそうだ。
営業の最前線にスタートアップ支援担当者を約160人も配置、上場前後を一貫して支援する“異例の部署”の新設、審査ルールの変更検討、投資体制の強化――。次ページでは、全方位の支援体制を築くみずほ銀の取り組みや、スタートアップの奥深さについて、大櫃直人・みずほ銀行常務執行役員に聞く。