トヨタ自動車や、そのケイレツ業者などを巡り、三菱UFJ銀行と三井住友銀行が熾烈な戦いを繰り広げるのが愛知県だ。近年は三井住友銀がトヨタへの猛攻を仕掛けている。だが足元では、こうした2メガバンクの攻防戦とは全く別の新たな“火種”もくすぶり始めた。舞台はトヨタ傘下の国内金融会社、トヨタファイナンス――。特集『3メガバンク最終決戦!』(全9回)の#3では、トヨタファイナンスで想定される巨額の資金調達額や、それを起点に始まる銀行間の腹の探り合いを追う。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
トヨタ経済圏の争奪戦を巡り
トヨタファイナンスで新たな“火種”発生
銀行同士が顧客を奪い合うことは間々あることだが、何かと話題になるのが、三菱UFJ銀行と三井住友銀行による“頂上決戦”だ。すなわちトヨタ自動車や、そのケイレツ業者などから成る愛知県内の「トヨタ経済圏」の争奪戦である。
トヨタ経済圏は、トヨタの保守的かつ慎重な方針によって動いており、かつて日産自動車が行ったような「ケイレツ解体」のような派手な改革とは無縁だ。だが、広範囲な改変を膨大に積み重ねているだけに、発生する金融取引は多い。
トヨタ1社に関して言えば、ここ数年、猛攻を仕掛けているといわれるのは三井住友銀の方だ。
例えば2018年には、長年トヨタと断絶状態にあった住友銀行出身の工藤禎子・三井住友銀取締役が、トヨタの社外取締役に就任。新型コロナウイルスの感染拡大後すぐ、日本自動車工業会がトヨタ主導で打ち出したサプライヤーの融資支援策「助け合いプログラム」でも、“ハブ”として立ち回ったのは三井住友銀だった。
だが、トヨタ経済圏全体で見ると、「三井住友銀などまだまだだ」と愛知県の企業幹部は語る。実際、帝国データバンクの企業データを基に、愛知県の輸送用機械器具製造企業におけるメガバンクの取引シェアをはじき出してみると、それは明らかだ。三菱UFJ銀が、全体の約半分のシェアを10年以上にわたって握り続けているのだ(下図参照)。
コロナの感染拡大が始まった20年を振り返っても、三菱UFJ銀は中部地区において、3~9月のわずか半年の間に、1兆3600億円ものコロナ対応融資を実行した。
むろん、コロナ禍が日常化してコロナ対応融資は返済が進んでいるが、この5年の貸出残高の推移はまずまずだ。デンソーやアイシンなど、トヨタ主要8社の22年3月期の銀行別借入額では、三井住友銀が前年同期比2.7%増にとどまるのに対し、三菱UFJ銀は同8.3%増である(8社合計。シンジケートローン除く。株主招集通知ベース)。
三菱UFJ銀は20年9月、中部地区で部品メーカー約200社の戦略を、本部と支店が連携しながら支える「サプライヤープロジェクト」を立ち上げた。こうした体制が貸し出し増に結び付いているとみられる。
ただし、トヨタ経済圏の争奪戦を巡っては、足元でメガバンク同士の攻防戦とは全く別の、新たな“火種”がくすぶり始めている。
舞台は、トヨタ傘下の国内金融会社として、自動車ローンなどの販売金融事業とクレジットカード事業を展開するトヨタファイナンスだ。ここで巨額の資金需要が発生しそうな雲行きとなっており、うわさを聞き付けた銀行各行がざわめいている。トヨタ経済圏の争奪戦にも、ゆくゆく影響を及ぼしそうだ。
次ページでは、トヨタファイナンスで想定される資金調達額や、それを起点に始まる銀行間の腹の探り合いを追う。