サプライチェーンの寸断懸念や、世界的な半導体不足などにより、在庫を積み増す必要に迫られ、財務体質の悪化に頭を悩ませる企業は多い。そこで三菱UFJ銀行が邦銀で初めて参入しようとしているのが、商社などが展開してきた「在庫買い取りビジネス」だ。特集『3メガバンク最終決戦!』(全9回)の#8では、在庫買い取りビジネスという「銀行外」ビジネスにおける三菱UFJ銀の“勝算”を探る。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
「カラオケ」で歌い実現に至った
“商社ビジネス”への殴り込み
昨年5月以降、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)では、「カラオケ」が複数回、開催されている。
といっても、社員みんなで楽しく歌を歌っているわけではない。三菱UFJFGでいうカラオケとは、歌を披露するかのように、新戦略や業務革新のアイデアを経営陣に披露する場のことだ。普通のカラオケと違って緊張感が漂うが、すでに約180件が提案された。
そのうち、新事業の展開を提案する「投資カラオケ」部門で経営陣から太鼓判を押されたアイデアが、実現に向けて動き出している。
製品のバイヤーとサプライヤーの間に立ち、在庫を一時的に買い取ることで、バイヤーの財務体質の改善を支援する「在庫ファイナンス」の展開だ。今年7月には、三菱UFJ銀行の100%子会社として新会社「MUFGトレーディング」の設立にこぎ着けた。事業は本年度中に開始する予定だ。
「まるで商社だ」。ある金融機関関係者がそう語るように、在庫ファイナンスは商社などが行ってきた貿易金融サービスだ。邦銀で展開するのは三菱UFJ銀が初である。昨秋施行された改正銀行法により、銀行子会社での展開が可能となった。
しかし邦銀界初の野心的な試みのはずが、銀行業界からは「在庫ファイナンスは手間がかなりかかる上に、リスクも高い」と、MUFGトレーディングの行く末を案じる声も聞こえてくる。
MUFGトレーディングはいったい、どんなビジネスを展開しようとしているのか。次ページでは、三菱UFJ銀のMUFGトレーディングという「銀行外」ビジネスの“事業計画”について明らかにしていく。