依存しやすいタイミングを見極める方法
──なるほど。どうして人間はそこまで秩序だったものを好んでしまうんでしょうか……と、私もまたさらに原因を知りたくなってしまっていますが(笑)。
植原:はい(笑)。進化論的に考えると、秩序だったものとして物事を捉える祖先の方が、生き残りやすかったからです。
たとえば、「次回もこの場所にこの果物がなっているだろう」「この弓矢でうてばこの獲物は捕らえられるだろう」「この生き物は毒を持っているから食べないでおこう」といったように、私たちの祖先は、世の中の秩序を見極め、予測を立てながら生き残ってきました。
せっかく秩序があるのに、それをうまく見いだせない人たちは、「次に何が起こるか」がわからず、生き残りづらかったのだと思います。
──そうか、予測するために原因を。
植原:そうです。「同じ原因が出現すれば、同じような結果がまた起こるだろう」と秩序立てて考えること。これが予測なんです。
実は、人が何か固定の説に依存しやすいのも、「予測可能性」が低下しているタイミング。
本書の「レッスン10」でも取り上げましたが、疑似科学・科学否定・陰謀論のような見解が広まりやすいのは、「予測可能性」が低下しているときです。
「依存」とは、不透明な中でなんらかの手がかりを探し出し、少しでも予測可能性を高めようという精神が働いた結果なんですよね。
「情報的な免疫」を手に入れよう
──たしかに、新型コロナの問題が浮上したばかりの頃、何も予測を立てられなくて、みんなすごく不安でしたよね。では、特定の何かに対する執着がやめられないなど、依存しそうになったらどうしたらいいでしょうか。
植原:「確固とした自己はないんだ」と受け入れることです。
「自分」というものは、それまで培ってきた経験や、いま所属しているコミュニティの環境・社会背景など、さまざまな要素が複合して成り立っている。
「絶対に変わらない自分」というのは存在しません。
そのことを自覚できれば、陰謀論のような特異な見解が自分のところに流れてくるのも当然じゃないか、と冷静に考えられると思います。
広いネットワークの中に自分はいて、どこから発生したのかもわからないような怪しげな話が流れてくる可能性だってもちろんある。
このように、「自分」とは、その都度、環境や時代に影響され続けてきたもの。
自分では知らないだけで、常に価値観や思考は流動し続けているかもしれません。
別の見方をすれば、「変わってきたもの」だということは、これから先「変えられるもの」でもあるんです。
自分の力で、自分の組み替えをする・構築し直すことは可能だということですね。もちろん、現実的にどこまで組み替え可能なのかは人それぞれですが、自分が置かれている環境をコントロールすることはできる。
自分の持っている依存的な傾向を減らしたいのなら、偏ったところでばかり情報収集するのではなく、情報収集先を複数箇所にばらけさせてみるのも有効です。
そうすると、「情報的な免疫」が徐々に形成されていくので、特定の何かを信じすぎてしまう、といったこともなくなるかなと思います。
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1978年埼玉県に生まれる。2008年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術、2011年)。現在、関西大学総合情報学部教授。専門は科学哲学だが、理論的な考察だけでなく、それを応用した教育実践や著述活動にも積極的に取り組んでいる。
主な著書に『思考力改善ドリル』(勁草書房、2020年)、『自然主義入門』(勁草書房、2017年)、『実在論と知識の自然化』(勁草書房、2013年)、『生命倫理と医療倫理 第3版』(共著、金芳堂、2014年)、『道徳の神経哲学』(共著、新曜社、2012年)、『脳神経科学リテラシー』(共著、勁草書房、2010年)、『脳神経倫理学の展望』(共著、勁草書房、2008年)など。訳書にT・クレイン『心の哲学』(勁草書房、2010年)、P・S・チャーチランド『脳がつくる倫理』(共訳、化学同人、2013年)などがある。