「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。

【91歳の医師が教える】もの忘れすることが多くなった…ほとんどの人が見落としている毎日の生活で脳の健康を守るちょっとしたコツPhoto: Adobe Stock

人間にとっての“大きな報酬”

【前回】からの続き 要介護・要支援にならなくても、高齢になると身体機能が少しずつ衰えてきて、家族の支えが必要になる場面が増えてきます。そうした場面で口にしてほしいのは、「ありがとう」のひと言です。支えてくれている人に、感謝の気持ちを素直に伝えてほしいのです。

ヒトの脳には、「報酬系」というしくみがあります。快感などを報酬として得られる行為は、またやりたくなります。その点、“群がり動物”であるヒトの脳にとって「ありがとう」は、大きな報酬なのです。「ありがとう」という言葉で感謝を伝えれば、相手は報われたと感じるでしょう。そこに絆きずなとコミュニケーションが生まれるので、孤独に陥る心配も大幅に減らせます。

私は医者でありながら、後期高齢者ですから、病院にかかることもあります。そこでは1人の患者として、頭を下げて「ありがとうございます」というようにしています。主治医や看護師さんからは、「先生、頭下げすぎです。こちらが困ってしまいますよ」なんていわれることもありますが、それでも感謝の気持ちを伝えたいのです。

夫婦の「ありがとう」は「アイ・ラブ・ユー」

私はいつも、夫婦の「ありがとう」は「アイ・ラブ・ユー」のことだといい続けています。ご夫婦は愛し合って結ばれたとはいえ、長年連れ添っているうちに、面と向かって「アイ・ラブ・ユー」の想いを伝えるために「愛してる」といい合う機会は減るでしょう。

年をとると、わざわざ「愛してる」なんていうのは照れくさくて、気恥ずかしくもなります。しかし、それでは夫婦の絆が細くなり、会話も減って、お互いの脳にとってもよくありません。「愛してる」と口にするのが気恥ずかしいなら、何かをしてもらったら「ありがとう」といってみましょう。

それでも最初はちょっと照れくさいかもしれませんが、愛情と感謝の心は、きっと伝わります。「ありがとう」という言葉を発するときは、相手がしてくれたことに思いを馳せることでしょう。それだけでも、脳は活性化します。

相手のことを考えて“脳を活性化”

「ありがとう」という感謝の言葉をかけてもらった側も、それを聞くと、あらためて相手のことを考えます。そのときにも脳は活性化します。日頃の会話が減っていると感じているなら、認知症リスクを避けるためにも、「ありがとう」がいえる場面がないか、探してみましょう。

朝、夫が新聞をとりに行ってくれた、妻が朝食をつくってくれた、夫が食器を洗ってくれた、妻が洗濯をしてくれた、夫が犬の散歩に行ってくれた……。何気ない日常にも、「ありがとう」といえるシーンはたくさんあるはずです。

ゲーム感覚で照れずに笑顔で「ありがとう」

これからは、そうした場面を見逃さず、勇気を出してお互いに「ありがとう」といい合いましょう。「ありがとう」といわれるたびに、相手から「愛してる」と告白されていると思ったら、心が温まるはずです。そこから、会話のキャッチボールが始まり、コミュニケーションが活発になれば、脳はより活性化されます。

1日に何回、「ありがとう」がいえるのか。「昨日は3回だったから、今日は5回いってみよう」。そんなふうに、ゲーム感覚で楽しみながら、互いに感謝を伝えてみてはいかがでしょうか。

※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。