自分は「辞められたら困る」と言ってもらえる人材なのか?
──奥野さんは35歳くらいのとき、何をしていましたか。
奥野:私も、いろいろ考えた時期だった気がしますね。30歳くらいのとき、新卒で入社した日本長期信用銀行が経営破たんしたんです。「絶対に潰れない就職先」とまで言われ、あれほどのステータスを誇っていた長銀でも、こんなにあっけなく終わりは来るのかと、愕然としたのを覚えています。「退職金は5万円です」とか言われて(笑)。
──えっ。5万円ですか!?
奥野:うん、ほとんどないようなもんでしたね。そのとき、会社というものがいかにあてにならないか、身に染みました。いま考えると、30代のまだ若い頃に、「他人は当てにならないんだ」と知る機会があった私は、ハッピーだったかもしれません。もし、ああいうことがなければ、ずっとあの会社に依存しながら、40代、50代になっても依存状態から抜けられず、退職金だけを当てにして生きていたかもしれない。
──「将来の退職金をもらいたいから、今の会社を辞められない」みたいな人もいると思います。
奥野:いると思いますね。でも、一度立ち止まって、自分の会社がほんとうに投資に値するのか、きちんと考えてほしい。それこそ、私が伝えたい「投資家の思考法」なんですよ。だって、「時間」という、いちばん大事なものをそこに投資してるじゃないですか。「勤める会社を選ぶ」というのも、一つの投資なんですよ。
もちろん、勤めるに値する会社なのかどうか、正確に見極めるのは無理だと思うんですけど、ただ、そういう視点を持つことそのものが大事で。「会社で働く」ことだけではなく、自己研鑽でも、経験でも、失恋でもなんでも、「自分の時間をそこに費やしているんだ」ということを、常に認識してほしいんです。
だから、親が「ここに行ったら安心よ」とか、周りがかっこいいと言ってるとか、そういう視点で就職先を選んじゃダメなんですよ。自分がないわけですよ、そこには。
──いや、そのとおりだと思います。
奥野:だから、35歳という差がつきやすい時期には、「自分の人生を、これから、どうやって大きくしていくべきか?」「どんなことに、どう投資したら自分の資産は大きくなるだろうか?」と、誰にも頼らずに、自分で考えないとダメなんですよ。それができないと、会社に依存している状態が永遠に続く。逆に、自立さえできれば、会社の方が依存してきますから。
「あなたが辞めたら困ります」と会社が言ってくるような状況になってはじめて、優秀な企業に転職できるんですよ。「自分はどこからでも求められる」「会社に依存しなくても稼げる」という状態に持っていかないと、本当にハッピーにはなれないですよね。
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第1回 「必死に働いてもお金持ちになれない人」の特徴ワースト1
第2回 なぜ、「真面目にコツコツ働く人」ほど損をしてしまうのか?
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(いずれもダイヤモンド社)など。
投資信託「おおぶね」:https://www.nvic.co.jp/obune-series-lp202208
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