また、デジタル社会は「切り替え(スイッチング)」を容易にした、と久保田教授。

「音楽の視聴方法を例にすると、かつて主流だったアナログLPレコードは、曲を飛ばすのも難しかったですよね。それがCDになり、簡単に曲を飛ばせるようになりましたが、アルバムの交換は面倒。ところが今はストリーミングサービスを使い、曲もアルバムもアーティストも、一瞬で変えられます。もちろんスイッチングが容易になったのは、音楽だけでありません。世の中全体を見わたしても、デジタルを介して、手早く物事を移り変われるようになりました」

 合理性・効率性を求める価値観の浸透と、それを支えるデジタル化。このふたつは、タイパを語る上では欠かせない要素だという。

 そして、Z世代の間でタイパ志向が顕著に表れている背景についても、久保田教授はこう分析する。

「おそらく、彼らがデジタルネーティブであり“デジタルツールの卓越したユーザー”である点が、理由のひとつと考えられます。彼らは幼い頃からデジタルツールを巧みに使いこなすことで、多様な製品やサービスを素早くスイッチングする『柔軟な消費能力』を獲得しています。この能力は、年齢が若いほど身に付けやすく、子どもの頃からデジタルツールに親しんできたからこそなせる技です」

 また、彼らは“同時並行で情報を処理する能力”にも長けており、バラエティー型のタイパ消費が行えるという。そのため、スマホで動画を見ながらパソコンで映画を見る、といった“ながら見”もお手の物なのだ。

「彼らの持つ、デジタルツールを使いこなす能力と、複数の情報を同時に処理する能力が、『バラエティー型のタイパ行動』に向いているようです。ただ、彼らはあくまでデジタルツールの“ユーザー”であり、新しいデジタルツールを提案できるとは限りません。そういう意味では、デジタルツールに使われている世代ともいえるかもしれません」

Z世代のタイパ志向の
背景にあるリキッド消費

 そして久保田教授は「リキッド消費」と呼ばれる消費スタイルが、Z世代のタイパ志向を読み解くうえで重要なヒントになる、と指摘する。リキッド消費とは、イギリスのマーケティング研究者、フルーラ・バーディ氏とギアナ・エカート氏が2017年の論文で発表した概念だという。

「リキッド消費には3つの特徴があります。一つは、その時々、あるいはその場その場で価値感が次々に変わるため、製品やサービスの価値がはかなく、短命となる『短命性』。次が、所有にこだわらずレンタルやシェアリングによって価値にアクセスできれば十分、と考える『アクセスベース』、三つ目が、同じ消費生活をするために物質に頼らなくなる『脱物質』。この3つの組み合わせがリキッド消費と定義されています」