いわゆるアクティビスト(物言う株主)のように、経営に対して注文を付け、自社株買いなり、事業の再編なりを求めるのであれば、1~2社に資金を集中する方が自然だ。もっとも、現在の日本株への低評価を反映して各社の時価総額が大きくないことが、バフェット氏の投資にとっては制約になっていると考えることもできる。特定の1社に資金を集中すると影響が大き過ぎるので、仕方がなく5社に分散しているということなのかもしれない。

 バフェット氏側に経営に関与する意図は当面ないとしても、各社の経営陣にとっては、バフェット氏の投資を受けて注目されることはそれなりのプレッシャーだろう。仮に、5社の中の1社の持ち株だけ売られるとすると、評判上はかなり情けないことになると想像できる。

大手商社株への投資
想定される「5つの狙い」

 日本の大手商社株は、バフェット氏が投資したくなるような属性を複数備えている。以下に列挙してみよう。

(1)日本株の中でも商社は割安株

 大手商社株は日本の株式投資家の間では、「割安株」として知られている。利益、純資産、配当のいずれに関わる株価指標を見ても「割安だ」といえる。

 例えば、三菱商事の22日の株価は、1株当たりの利益に対して6.50倍、純資産に対して0.84倍、配当利回りが3.4%と計算される(利益と配当は会社の予想値に基づく)。これに対して、東京証券取引所プライム市場上場銘柄の平均は、利益に対して13.59倍、純資産に対して1.16倍、配当利回りは2.35倍、だ。

(2)日本株自体が割安

 昨今の円安で、もうかっている会社もそうではない会社もあるが、上場企業全体の今期利益は史上最高益が予想されている。

 こうした中で、PER(株価収益率、利益に対する株価の倍数)が約13倍という水準は、利益を利回りに換算したときに7%を超えており、割安だと言っていいだろう。日本銀行が長短金利をコントロールしているので、長期国債(10年債)の利回り約0.25%と直接比較していいかという問題はあるとしても、日本株全般の株価自体は高くないと考えていいだろう。

(3)円安も投資のチャンス

 現在の円安は、米連邦準備制度理事会(FRB)と日銀の金融政策の差を主な原因としていることが明らかだ。この差は、数年単位で見ると日銀の政策変更によって縮小する公算が大きいし、日米両国のインフレ率の差は、購買力平価の上では「長期的に」円高材料だ。

 バフェット氏が実践する超長期の投資にあって、為替レートは上下に振れることはあっても、物価や金利との関係で損得なく調整されるものだと考えられる。それでも、「一時的に極端な円安」かもしれない現在の状況は、投資のチャンスという意味ではバフェット氏にとっても悪くないはずだ。

 バフェット氏は生涯を通じて、前半は割安株投資、後半は強い競争力を持った会社に対する長期投資へと投資スタイルを修正してきた。ただ、後者の投資にあっても、投資の入り口にあっては「安く買える」ことを歓迎している。