元幹部自衛官でなければ
年収200万円でよしとせよ

 鈴木さんのように、給与に不満を持つケースは決して珍しくない。自衛官の年収を見てみると、階級や職務によっても異なるが、50歳時点の幹部で年収約1000万円弱、准曹で約750万円となっている。これが再就職後にはぐっと下がる。在職時に1500万円ほどもらっていた将官であれば1000万円を超えるが、首都圏の1佐クラスで500万~600万円ほど、准曹だと400万円を切る水準となる。地方に行けばさらに下がり、准曹では250万円以下を相場とする地域もある。

 実際、地方で再就職を支援する立場に就いたことがある者は、「幹部でなければ『年収は200万円あればよしとしなさい』と指導していた」と振り返る。年収や現場仕事メインの業務内容に不満を漏らす者もいると言うが、「自衛官の持つスキルを考えれば、その年収が現実。それに我慢できなければ、自分で探すしかない」と話す。

 もちろん、自衛隊には賃金の減少を補填するための制度も用意されている。それが定年後2回にわたり計1300万~1500万円が支給される「若年給付金」だ。自衛隊では、再就職先での給与+若年給付金を足し合わせて現職時代の75%の給与の確保を目標としており、若年給付金があるからこそ、あえて再就職後の給与額を抑えている面もある。

 再就職後給与が低いことは、企業からすれば優秀な人間を安く雇えるメリットにつながる。実際、就職支援担当者の尽力もあり、自衛隊に寄せられる求人の数は決して少なくない。また、退官一時金(退職金)は幹部で約2700万円、准曹で約2100万円ほど支給される。

 ただし50代半ばというまだまだ第一線で働ける年齢において、これまでとは考え方も業務内容も全く異なる新しい環境に放り込まれる上、「給与」として与えられる金銭も急激に下がるとなれば、モチベーションを失うこともやむを得ないのではないだろうか。目標である「現職時代の75%の給与」を実現できていないケースも相当数に上る。人間関係や業務内容といったさまざまな要因から、早期に離職する割合も少なくないという。