「女性はこうあるべき」から解放を

日本のDX最前線『ルポ 日本のDX最前線』
酒井真弓(集英社インターナショナル)

 鷲谷さんは最近、県内の行政機関や教育機関からの依頼で、学生たちに仕事やライフデザインを語る機会が増えたという。

「私が学生の頃と比べれば大分変わってきましたが、今の学生たちもジェンダーステレオタイプにとらわれ、生きづらさを感じていることに驚きました。地方は首都圏と比較して職業や生き方の選択肢が少ないのが実情です。その分、性別役割分担意識が強く残っているのでしょう」

 学生はいつの時点でステレオタイプを植え付けられてしまうのか。

「小学校低学年くらいで本人の中にストンと落ちてしまうんですって。自分たちの経験から考えても、親や先生の影響は決して小さくないですよね。『うちの親世代でも女性はこうあるべきなんて考えなくていいと言ってくれる人がいるんだ』と感想を寄せてくれた女子生徒もいました。こういうループは、私たちの代で断ち切らなければ」

 鷲谷さんは、「幼少期からの刷り込みがある以上、ジェンダーギャップが自然に埋まることはない」と断言する。強制的なようだが、人数や比率を意識しながら多様性を作り出す必要があるという。

「女性は多様性に満ちているのに、今は少数の女性が"女性の代表"みたいな扱いをされています。かくいう私も男性中心の会議に"女性枠"として呼ばれることがあるんです。そうすることで多様性ができたと安心してしまい、それより奥を見ようとしなくなる。これでは、たった一人の女性の声が大きくなりすぎて溝は深まるばかりです。このループを断ち切るには、たくさんの人が同じ舞台に立ち、ここに確かに存在する多様性をみんなが認識する必要があります。そのためにも、ジェンダーや立場や制約を超え、誰もが希望を見いだせる働き方の選択肢、キャリアアップの実例を作ることに意味があるのだと思っています」