iPhone製造工場の
インド移転の衝撃

 タタが半導体参入を発表する直前に、インド投資に関して注目される報道があった。それはアメリカのAppleが同社のiPhone14をインドで製造すると発表したことだ。アップルが最新製品をインドで生産するのは今回が初めてのこと。AppleからiPhone製造を請け負っている台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)が、インド南部のタミル・ナドゥ州チェンナイ近郊に工場を建設して製造を始めるという計画だ。

 Appleの主力製品である最新型iPhoneを製造することは、世界の代表的IT企業から高い水準の技術力を認められたことを意味する。脱中国の避難先としてインドが有力な選択肢になった証左とみることもできるだろう。

 その陰に、モディ政権の製造業復興政策である「メイド・イン・インディア」の取り組みがある。製造業拡大のためのモディ政権の地道な努力が、ようやく実を結び始めたのである。

 ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、JPモルガンは2025年までにiPhoneの4分の1がインドで生産される可能性があり、また、2027年までにインドが世界第3位の経済大国になると予想しているという。Appleやフォックスコンがインドは重要な製造拠点となり得るとみていることは確かだろう。

 IT大国インドはもともとIT分野で多くの優秀な人材を生みだしており、アメリカのシリコンバレーを拠点とするIT企業でもインド系幹部がかなりの割合を占めるようになっている。ソフトウエアに強みがあるゆえに、新型iPhoneのような先端ハードの製造を呼び込めたことは、一つの大きな成果である。

 Appleの試みが成功すれば、日欧米において中国とのデカップリングが進む中で、インドが「脱中国」における有力な選択肢として浮上するきっかけとなり得るだろう。

 ただし、ウォールストリート・ジャーナル紙によると、インドにおけるIT分野の就業者数は510万人にすぎず、全人口約14億人の主要産業とは言い難い存在である。そのため、インド経済が飛躍するためには、ソフトウエアのみならず、製造業を呼び込むことが不可欠になる。

 インドが世界第3位の経済大国になるには、西側のサプライチェーン拠点の地位を中国から奪い取り、中国との経済的な依存関係を脱却できるかどうかが一つのポイントとなるだろう。

 また、2023年に中国を抜いて人口世界一になるのが確実なインドは、投資家にとって魅力的なマーケットだ。特に中国市場が西側と切り離されることになれば、「次に狙うべきなのはインド」という認識は、ほとんどの企業が共通して持っているのではないだろうか。