中国が製造拠点としての信用を失ったきっかけは、トランプ大統領が中国の製品開発の姿勢を「アメリカの技術を盗んでいる」「アメリカの知的財産にただ乗りしている」として、貿易制裁に走ったことだった。その後も、それらの技術が安全保障上の脅威になり得るとして、アメリカによる制裁はさらに強まった。

 こうした中、中国側は日米にキャッチアップするために、中国に投資した外国企業への締め付けを強めたことで評判を落とした。そして、それに拍車をかけたのがゼロコロナ政策だった。中国政府は2022年11月末に起こった「白紙革命」をきっかけにコロナ規制を緩めたが、だからといって、脱中国の動きが緩まるとは考えにくい。

 また、近年は中国政府が台湾併合の野心を隠さなくなり、中国への地政学的リスクが多くの西側企業で意識されるようになっている。ロシアのウクライナ軍事侵攻で明らかになったように、一方が「侵略行為をした」と認識されれば、「侵略国」への投資資金を回収する前であっても撤退を余儀なくされることが避けられない。

「中国を中心に構築したサプライチェーン」を再構築することが、グローバル企業の課題になるのはほぼ確実である。したがって、民主国家でありながら中国に匹敵する人口を要するインドに注目が集まるのは当然だといえる。

外国企業のインド参入が
難しい数々の理由

 インド経済は中国にかなり依存している。インド商工省によると、2020年のインドの貿易額は、トップが中国で863億ドル(約11兆7000億円)であり、2019年までトップだったアメリカを抜いている。インドと中国は国境地域でたびたび紛争を起こしており、インド国内で中国製品の排斥運動が起こるほど関係が悪化したことがあるが、中国への経済依存は深まる一方にある。

 中国とのデカップリングを考えてインドに工場を移転させたとしても、中印の経済的なつながりが強いうちは、インドを全面的に信頼していいかどうかは不透明だ。

 また、インドは環太平洋連携協定(TPP)に参加しなかったほか、地域的な包括的経済連携(RCEP)の交渉からも離脱しており、多国間貿易協定を避けている。インドを国際的なサプライチェーンに組み入れたくても、他国との連携が難しいので、国際的なサプライチェーンの構築を目指す企業には理想的な国とは言い難いのである。

 さらにインドの信頼度を損ねているのが、「ライセンス・ラジ」の伝統だ。

 ライセンス・ラジとは、インドが国内産業を守るために企業活動を許認可制にしたことを指す。ライセンス・ラジでインド当局が大きな裁量を持ったことで、官僚に対する賄賂が横行した上に、事実上の「技術鎖国」によって技術開発競争に大きく後れを取る原因となっている。

 ライセンス・ラジ自体は、1991年にインド政府が産業参入の自由化を実施したことで表向きは廃止されているものの、実際はいまだにその伝統が色濃く残っているといわれている。

 確かにIT大国らしくデジタルインフラは整いつつあり、デジタル決済サービスの普及度は国際水準から見ても群を抜いている。都市部に関しては、デジタル環境は整っているといえる。また、旧イギリス植民地で英語が得意な人材が多いことも、国際ビジネス投資の上では特筆すべき強みである。