さらに、中国と違ってインドは純然たる民主国家であることから、「中国より信頼できる」と考えるのが自然な流れだ。
ところが、実情を見ると、外国企業からの投資は全体的に低調であり、「次はインド」と派手に宣伝していたAmazonも苦戦を強いられて、参入した産業のいくつかから早くも撤退せざるを得なくなっている。
「次はインド」のかけ声から外国企業のインド参入は恒常的に続いているものの、その多くが成功したとはいえない状況に甘んじている。
その原因の一つが制度の不安定さだ。インドでは上述したようにライセンス・ラジの伝統がまだ根強く残っており、当局の裁量権が大きいままである。そのため投資時点と制度が変わり、結局採算が取れなくなる事態に追い込まれるケースが散見される。
それを避けるためにインド企業と提携するという方法もとり得るが、その場合、今度はインド企業側が自分たちだけがもうけようとして、失敗するというケースも少なくない。
結局、タタのような自国の大企業が制度上も補助金などでも優遇される環境は温存されており、外国企業は最初から不利に置かれる。Appleにしてもインド政府がお墨付きを与え優遇してくれるからこそインド移転ができるのであり、投資環境は中国よりはるかに劣っている。
さらにインドで最も致命的なのが中流層の薄さだろう。インドにおいて、国際水準で「中間層」と見なしていいのは全人口の15%にすぎないとみられている。また、GDPのかなりの割合を占めるとみられる富裕層が貯金する傾向が強いために、消費が伸びにくいと分析している研究がある。(参照https://www.foreignaffairs.com/india/why-india-cant-replace-china)
全人口における若年層の割合が高いので、市場のポテンシャル自体は高いものの、中間層がまだまだ育っていないことは、インドでのビジネスを難しくする原因となっている。国際的なサプライチェーンにおいて脱中国が進むにしても、その代替国としてインドが第一候補になることはまだ期待できないだろう。
高い技術が必要な分野で中国の代替ができるとすれば、日本、韓国、台湾の3カ国に絞られるが、そのうち韓国はストが頻発しておりオペレーションにおいて安定しているとは言い難い。また、台湾は言うまでもなく地政学的リスクが高く、むしろTSMCをはじめとする台湾の半導体技術を中国からいかに守るかが喫緊の課題になっている。
したがって、脱中国の動きで最も恩恵を受ける可能性があるのは日本になるだろう。
インドは確かにポテンシャルの高い国であるが、まだそれを生かせる環境にはないと考える。投資環境として中国には遠く及ばず、制度面をはじめ、官僚や労働者の職業倫理まで整えるとなると、かなりの時間を要すると考えられる。
(評論家・翻訳家 白川 司)