人間は言語を読みたいように読む

 ちょうど2020年のコロナで「休業補償と自粛要請はセット」だって言ってた時に、演劇界は、自分らだけ特権だと思ってんだろうみたいな炎上の仕方もしました。

中野 ああ、覚えています。

鴻上 その時に僕の知り合いの大手のプロダクションの社長が、炎上の話を聞いて、「我々は年間10億円の法人税を払っているんだ。だからこそ、今芝居が何本も中止になったことに対して、休業補償を求めるのは、当たり前だと思ってるんだ」と言ってくれたというのをテレビで紹介したら、鴻上は年間10億の税金を払っているっていうのがいきなりTwitterで広がってました。

中野 頭がクラクラしますね。

鴻上 すごいでしょ。さらに、某大学の准教授が「劇団員を奴隷のように働かせて、鴻上はもうけているんだ」とかTwitterで書いてるわけ。劇団員を奴隷のように働かせて、10億納税できるほどもうかるんだったら、俺はやるぞって思いましたよ(笑)。その人に抗議のツイートを送ったけど、完全に無視されました。

 はっきり思ったことは、テレビだと正確な情報は伝わらないんだということです。こんなにテレビというのが情緒的で、理性的な伝達能力が低いとは、ただただ、驚きでした。

中野 かなり気を使いますね。言語の怖さですよね。特に視覚の言語って、Twitterもそうなんですが、言葉が短くなっていけばいくほど、人間の存在が記号化しちゃうんですよ。記号化した時にはさげすんでもいい存在になったり、どんなに攻撃しても倒れないラスボス的な悪の権化みたいな存在にされたりしてしまうんです。

鴻上 人間は言語を読みやすいように読む。それは脳の機能としてなにかあるんですか?

中野 そうですね、いわゆるゲシュタルト認知をするようなものですよね。もう、すでに理解のひな形がそれぞれの脳にあるんです。で、記号はそこにあてはめるだけ。でも、言語って、そもそもそういうもの。文字の成り立ちがそうじゃないですか。木そのものを葉っぱ1枚まで描くよりは、木の造形を模した形で記号として表す。その記号を受け取ったら、それぞれの脳内で再生する。

 存在が濃縮された「濃縮果汁」としての文字を受け取ったら、それぞれの脳内で、それぞれの脳内にある「水」で希釈して還元しちゃう。それぞれの脳によって戻す水が違う、それぞれ異なる「濃縮果汁還元」みたいなことが起きてるわけですよ。