若者向けにあつらえられた
紅白歌合戦から読み解けるもの

 オーディション番組関連グループとして上に名前を挙げたが、IVE、TWICE、NiziU、LE SSERAFIMはいわゆるK-POPの女性アイドルグループで、韓国の事務所に所属していたり、韓国人と日本人のメンバーで構成されている。

 韓国女性アイドルグループ(その界隈では『ガールズグループ』と呼んだ方が通りは良さそうである)は、ファンの男女比率がグループごとに顕著に違うが、たとえばTWICEは(男性:女性)=45.4 : 54.6(%)、IVEは33.4 : 66.6となっている(※参考KPOP monster)。

 男性でなく、女性に支持されるガールズグループはファッションリーダー的であり、若い女性のカルチャーをけん引する。現在ファッションにおいて若い世代での韓国の影響はとても強く、2022年紅白出場歌手のラインアップは、かなり若い世代向けになっていることがうかがえる。「若い世代に親しみを持ってもらおう」「若い世代に少しでも楽しんでもらおう」という意図がムンムンしていた演歌のステージングなどを見ても、若い世代に照準がピタリと合わせられていることは明らかである。

 また、2022年紅白歌合戦のテーマのひとつに「シェア」が掲げられていて、公式サイトには「テレビやラジオで紅白を楽しみながらスマホで感想をシェアしよう」的なことが書かれている。これも若い世代向けのメッセージである。

 ターゲットが若年層に向けられている紅白歌合戦は、いったい何を狙っているのか。想像を巡らせてみるとさまざまな可能性が思い浮かんで楽しい。

「ネットに押されるテレビが生き残る道を求めてネットの権化ともいえる若年層に取り入ろうとしている」とか、「単純にセールスと人気の結果が反映された出場歌手のラインアップだった。今後さらに若年層向け路線が強められるのではないか」とか、いかようにも解釈できるが、その中でも個人的に気に入った仮説を思いついた。

 高齢者世代の「私たちが楽しむ枠はいらないので、その分を若い人たちに譲ってください」という慈愛の姿勢が紅白出場歌手ラインアップに表れている、というものである。

 突拍子のない着想のように思えて、少子高齢化のためか子どもがやけに大切にされる昨今の風潮と密接にリンクしていて説得力がある。何しろ(筆者の親を見てもそうだが)、おじいちゃん、おばあちゃんの孫のかわいがり方はどこも尋常でない。そうした祖父母からすると、紅白で「ワシの好きな演歌」を見るより、理解不能な若者カルチャーミュージックを放映してもらった方がうれしいのかもしれない。自身は理解できなくとも、孫世代が楽しんで見てくれるのが至上だからである。

 氷河期世代の読者諸氏は、今こそ紅白歌合戦を客観視できるチャンスである。気持ちを入れて見ることができる出場歌手がとりわけ少ない今だからこそ、一歩引いた視点で“紅白”という番組と、それを視聴する人たちの顔を観察することができる。そしてそこで、出場するガールズグループを応援する孫や、その孫を見て満足げな祖父母を発見し、自身も優しい気持ちになれるに違いない。