必ずしもNATOは
「正義の味方」だといえない
さらにウクライナ紛争では、多くのロシア国民・ウクライナ国民の命が奪われた。
多くの人命が失われるきっかけを作ったという意味では、米英を中心とするNATOの責任も大きい。開戦前、米英はロシアの動きを完全に把握しながら、ロシアを挑発して戦争を誘発したように見えた。
開戦後はウクライナが予想外に善戦しているが、それは米英の支援があるからだ。
だが米英は、ロシアへのエネルギー依存度が低いため、戦争が長引いても自国への悪影響は少ない。戦争が長引くほど、ロシアは弱体化する。そうなれば、ウラジーミル・プーチン大統領を失脚させることも可能かもしれない(第304回)。
米英は、この戦争を積極的に停戦させる理由がないのだ。
さらに言えば、米英を中心とするNATOはウクライナ戦争が始まる前から、既にロシアに勝利していたとの見方もできる。
東西冷戦期、ドイツは東西に分裂し、「ベルリンの壁」で東西両陣営が対峙(たいじ)した。当時、旧ソ連の影響圏は東ドイツまで広がっていた。しかし、冷戦終結後、旧共産圏の東欧諸国をはじめ、旧ソ連領だった国は次々と民主化した。その結果、約30年間にわたってNATO・EUは東方に拡大した。
現在はウクライナやベラルーシなど数カ国を除き、旧ソ連の影響圏だった国のほとんどがNATO・EU加盟国になった。そして、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退した(第297回)。
要するに、ウクライナ戦争は世界的に見れば小さな「局地戦」にすぎない。仮に、ロシアがウクライナ全土を占領したとしても、NATOの東方拡大とロシアの勢力縮小という大きな構図は変わらない。
その上、22年5月には、それまで中立を保ってきたスウェーデン、フィンランドがNATOへ加盟申請した(第306回・p2)。ウクライナ戦争中に、NATOはさらに勢力を伸ばしたといえる。
語弊を恐れずに言えば、仮にウクライナを守れなくてもNATO優位の状況は揺るがない。この戦争は、既にNATOの勝利だといっても過言ではない。
世間一般では、米英を中心とするNATOは、ロシアに攻め込まれたウクライナを助ける「正義の味方」のように思われているかもしれない。
だが実際は、ロシアをさらに弱体化させるための「手段」として、ウクライナ戦争をうまく活用している側面も否定できない。