その観点では、ロシアだけでなくNATO諸国も、国際的な協力関係にひびを入れ、人々の生命と財産を危険にさらしかねない存在だといえる。

 長期化するウクライナ問題を読み解く上では、こうした視点を持っておくことも大切だろう。

中国は「ちっぽけなプライド」を
捨てるべきである

 また、22年に、ロシアとともに国際社会の懸念材料となったのが中国だ。中国においても、国家の存在が平和で豊かな人々の生活を脅かしている。

 22年の共産党大会政治報告で、習近平主席は台湾への武力行使を「絶対に放棄しない」と述べ、武力統一の可能性を示唆した(第316回・p5)。これは非合理的な発言だ。台湾を攻撃して多くの人をあやめ、企業を破壊し、独立の機運をそいだとしても、中国が得られるものはないからだ。

 台湾には天然資源が豊富にあるわけではない。台湾が持つリソースとは、半導体などの生産力や技術力、それらをオペレートする人材が持つ知識である。その全てを破壊し、焼け野原と化した台湾を占領・統治しても、中国の産業や経済にもたらすメリットはない。

 そもそも、中国と台湾は経済圏として一体化しているといっても過言ではない(第263回)。台湾経済を破壊することは、中国経済の破壊に直結する。さらに言えば、中国が台湾に侵攻すれば、米国などの自由民主主義陣営から厳しい経済制裁を受ける。その結果、国民が失業や貧困にあえげば、中国共産党への支持が失われる。

 中立な立場で分析すると、中国は台湾に穏やかな態度で接しながら、その生産力・技術力・人材を「有効活用」したほうが自国のためになるだろう。

 中国が、本当に台湾への軍事侵攻を決断した場合、それは世界に対して自らの力を誇示したいという「国家のちっぽけなプライド」を満たす愚行なのは明らかだ。

 そもそも、中国が世界にアピールしてきた「国家主導による政治経済体制の優位性」というものが存在しないことも指摘しておきたい。

 中国の高度経済成長は1978年、当時の最高指導者だった鄧小平氏の「改革開放政策」から始まった。

 その一つの施策として、深セン、珠海、汕頭、廈門に「経済特区」が設置された。また、1984年には「国家級経済技術開発区」として14都市が指定された(その後さらに増加)。鄧氏はこの経済特区内で、共産主義の規制を撤廃した「ミニ・アメリカ」とも呼ぶべき自由な市場経済を導入して外資を呼び込んだ。

 外資が特区内に建設した工場で大量生産された中国製品は、巨大な米国市場に輸出され、莫大な利益を上げた。そして、中国は高度経済成長を達成した(第211回・p4)。