混乱を呼ぶ中国のコロナ対策は
本当に国民のためなのか
そして、中国は「安かろう、悪かろう」と呼ばれた製造業から、IT産業、ハイテク産業へと産業構造の転換を図った。その推進役となったのは、米国などの海外に留学し、最先端技術を習得してから帰国した300万人超いる「海亀族」と呼ばれる人材である。
その結果、アリババ、バイドゥ、ファーウェイなどの新しい企業が台頭し、圧倒的なスピードで成長。ビジネスの発展においては、中国の先を走っていた日本を抜き去った。
ここで重要なことは、中国に高度成長をもたらしたのは、中国共産党による国家主導の体制ではなく、米国型の市場経済の限定的な導入だったという事実だ。
だが、近年の中国は「ミニ・アメリカ」で経済活動を自由にさせて成長するシステムから、経済を強権的に管理する姿勢に変化。香港民主化運動を力で抑えつけたほか、前述の通り台湾への武力行使も示唆している。
だが今のところ、こうした中国の手法が成功する保証は全くない。
むしろ、共産主義体制が自国の生産性・競争力を低下させ、経済を低迷させることは、ソビエト連邦と東欧共産主義諸国の崩壊という歴史によって、既に証明されている。
中国の共産主義体制は「新しい世界の政治経済モデル」となるというよりも、中国に長期的な停滞をもたらす懸念があると言わざるを得ないのではないか。
また、中国の共産主義体制は、新型コロナウイルス感染症対策を巡っても混乱を呼び、人々を不安にさせている。確かにかつての中国は、徹底した都市封鎖と行動制限の「ゼロコロナ政策」によって感染拡大を抑え込んできた(第236回)。
だが、その政策が限界を露呈し、国民からの不満も爆発しているにもかかわらず、「ゼロコロナ」からなかなか脱却できなかった(第302回)。
「ゼロコロナ」による行動制限が続き、経済の停滞が深刻化して失業者が増加したことで、22年11月下旬には北京や上海など中国各地で大規模な抗議活動が起こった。結局、中国政府は厳格な感染対策を緩和することになった。
しかし12月上旬以降、感染は瞬く間に全国に拡大。中国国内のメディアが「6億人が感染した」との見方を伝えるほど、各地で患者が爆発的に増加した。それでも、中国政府は実態を明らかにしていない。
それどころか、習近平国家主席は、年末恒例のテレビ演説で「ゼロコロナ」政策について「未曽有の困難に打ち勝った」と事実上の勝利宣言を行った。あまりに無理筋な勝利宣言である。