医療基盤が崩壊、多くの病院が倒産した

 ゼロコロナ政策は、中国の医療機関の数を減らすという災いも生んだ。中国病院協会は「コロナ禍で2000を超える私立病院が倒産した」と公表したのである。

 中国では、限られた数の公立病院を補うために私立病院の役割が期待されているのだが、2019年末時点では黒字だった私立病院の業績も、2020年以降のコロナ禍で支出が急増し、大幅な赤字に転落した。こうしたことを背景に、中国では医療従事者の賃金未払いを訴える抗議活動が頻発している。

 振り返れば、2022年に上海で行われたロックダウンでは、4月上旬時点で26の総合病院が外来・救急・新規入院などの業務を停止させられたが、これは医療を必要とする患者に大きな影響を与えただけでなく、病院の収入源を失うことにもつながった。

 同じようなことが上海以外でも起きている。安徽省宿州市の公立病院では、地元政府の要求に従い、従来入院していた患者を退院させてコロナ感染者を収容した結果、財源を失い、従業員の雇用の維持が困難になった。

 四川省楽山市では、公立病院が閉鎖された。慢性的な赤字を負っていたこの公立病院は、以前から製薬会社などへの支払いが滞っていたが、そこにコロナが襲い経営不能に陥った。

 もとより、中国の医療基盤は脆弱(ぜいじゃく)だった。コロナ禍以前から、上海などの一級都市ですら、公立病院には朝から長蛇の列ができ、順番を取り、診察を終えるには実に1日がかりという状況が当たり前だった。

 中国政府は医療崩壊を予見し、人口に対して少ないと言われる病床確保の目的で厳しいゼロコロナ政策を課したとしている。しかし、上からの通達による一刀両断の措置は、結果として医療機関の収入の低下を招き、地元医療の基盤喪失を招いた。ゼロコロナ政策は、こうしたところでも裏目に出てしまったのである。