試験的IQを見切り発車
足並み揃わぬまま混乱に

 マグロを獲りまくる全マ協を「漁獲規制お構いなし、やりたい放題のまるで海賊だ」と非難する声がマグロ漁業関係者から筆者の耳に届いたのは2021年秋のこと。

 以来、水産庁やキントラ船団、近かつ協への取材を進めたが、そうした風説が流れるもとになった極端なまでの漁獲量格差が生まれた原因は思いのほか単純だった。

 ひと言でいえば水産庁による行政指導の失敗、調整ミスだ。

 2020年に施行された改正漁業法に基づき、水産庁は漁獲制限の手法としてIQを本格導入する方針を打ち出した。近海はえ縄漁業は太平洋クロマグロの資源管理では「かつお・まぐろ漁業」というくくりの中で最初の適用対象となり、2022年1月から国が直接、漁船別に枠を配分するIQを実施している。

大間まぐろなら1kg5000円で取引も!クロマグロ漁獲枠を漁師が転売する裏事情はえ縄漁船はクロマグロのほか、メバチ、ビンチョウ、サメ類なども漁獲する(和歌山県勝浦漁港で、2022年5月、筆者撮影)

 2022年からの本格実施に先立ち、水産庁は2021年4月から12月までを試行期間として、自主的なIQに取り組むよう近海はえ縄2団体に働きかけていた。IQの算定に使う基礎データは2018年から2020年まで3年間分の漁獲実績の合計量だった。

 しかし、その方針に全マ協が不公平だとして反発、自主的にIQへの参加を見送った。新規参入漁船が多く2018年の漁獲実績はほぼゼロに等しく、3年間の合計では不利になるからだ。

 その結果、近かつ協は自主的にIQを試行するものの、全マ協は「かつお・まぐろ漁業」総枠の中で従来通りオリンピック(早い者勝ち)方式を継続する事態になった。

 そうなれば獲りたいだけ獲る側、つまり全マ協が大量に漁獲するのは自明の理、スタート前から十分に予想できることでもあった。