7年越しのスマートグラス本格導入
片眼タイプを選んだ理由
「スマートグラスに目をつけたのは、ハンズフリーで作業を生中継できるからです。きっかけは、保守現場を見たり体験したりする中で、『確認を要する箇所を、ひとつひとつスマホのカメラで撮って送るなんて大変。他に何か方法はないかな』と思ったことでした。現場が少しでも楽になる方法はないか探る中で、スマートグラスに行き着いたんです。でも、検討を始めた2015年頃は、ヘルメットを着けた状態で使えるスマートグラスがなく、ケーブルが必要だったり、ネットワーク機材を別途設置しなければならなかったりする製品が多かった。大きなバッテリーを背負って作業現場に入ってみたのですが、とにかく動きづらくて」
スマートグラスがケーブルレスになってきたのは、3~4年前のことだ。
「10分ほどで本体が熱くなり、熱暴走でシャットダウンしてしまうんです。建物の階数にもよりますが、メンテナンスの業務は1時間前後かかります。これに耐えられる必要がありました」
会議室と現場では違う結論が出ることもあった。
「会議室でスマートグラスを試してもらうと、ゴーグル状の両眼タイプのほうが焦点が合わせやすく、普段現場で保守をしているメンバーも含めて非常に好評だったんです。しかし、私が事前に現場で試したところ、物理フレームのせいで反射してしまって現実が見えなくなってしまうのです。『これでは仕事にならない』と思って、両眼タイプは除外しました」
メンテナンスの現場では、技術者がエレベーターのかごの上に乗ったり下に潜ったりと、安全帯を必要とする危険な作業も多い。スマートグラスがトラブルの引き金になってしまっては本末転倒だ。
石岡さんは、スマートグラスの新製品が出るたびに試し、7年間で15機種を検証した。地道に粘り強くというわけではなく、スマートグラスの進化を追うのが純粋に楽しくて、好奇心のほうが勝っていたという。
記事冒頭の写真が、7年越しでたどり着いた現場の要件を満たすスマートグラスだ。採用したハードウエアはVUZIXの「M400」。片眼タイプで、ディスプレーの位置調整機能を持ち、視界の確保が容易だ。防じん・防水・耐衝撃といった強靭性を兼ね備え、ヘルメットや眼鏡を付けたままでも装着でき、ハンズフリー通話もできる。