これは就任当初から変わっていないが、私は長所を伸ばすことを目指すタイプの指導者だ。選手の良いところを見つけ、それが武器となるように育てているつもりだ。その長所が伸び、本人も成長の実感を得て、「さらに上を目指したい」という意識が芽生えたときに、少しだけ短所の改善に取り組むように仕向ける。そうすると選手自身の意識が前向きになっているため、自然と短所の改善に取り組むようになるのだ。

 私自身、指導を変えていこうと考えたとき、改めて長所を伸ばす面により目を向け、それに合った声をかけるようにしようと決めた。

 それに合わせて、「男だろ!」のイメージを払しょくしなければならないと考えた。「男だろ!」が奮起を促す叱咤激励の言葉だとしたら、もっと前向きに自信をつけさせる声がけをしようと考えたのである。どんな言葉をかけたらいいかを考えたとき、

「おまえならもっとできるぞ、やれるぞ」

 という、選手たちの可能性や未来を肯定する言葉だった。

得意部分を伸すことが、苦手部分の改善につながる

 過去に、短い距離を得意とするスピード型の選手として入部してきた者がいた。入部当初は10㎞以上のレースで結果を残せるだけのスタミナを備えていなかったが、本人は箱根駅伝のメンバーになりたいという思いを持っていた。ただ、スタミナをつけるための練習は得意ではなく、あまり前向きには取り組んでいなかったように見受けられた。

「まずは武器であるスピードを伸ばすことに意識を向けるぞ」

 私はそう言い続けた。その選手は言葉の通りに練習を積み重ね、得意のトラック種目でタイムが伸びていったため、自信も欲も生まれたのだろう。個人練習で走るジョギングでも少しずつ時間を伸ばすなど、進んで練習量を増やしスタミナ強化に積極的に取り組むようになった。