「走りが良くなったな。走り込んだ成果だな」、そう声をかけると、嬉しそうにその後の練習もますます意欲的に臨むようになった。そして、のちに箱根駅伝に出場しただけでなく、好結果を残すまでになった。

 この選手は比較的早く成果が出たのだが、スタミナを育むのにはもっと時間がかかるのが常だ。私も焦るつもりはない。選手が自信をつけ、苦手な部分の改善に目を向けるようになるまで「武器を伸ばせばいい。その先に道は開ける。きっと大丈夫だ」と言い続けるつもりだ。

 とはいえ、今でも箱根駅伝の前になるとメンバーの選手たちから、「監督、自分のペースが落ちたら“男だろ”って檄を飛ばしてください」といったリクエストがある。その言葉で力が湧くのであれば、仕方がない。私はそれを希望する選手にだけ、「男だろ!」を言うようにしている。テレビ中継を見ていただいている方はわかると思うが、これを言うとたいていの選手は「わかりました!」とばかりに手を上げて応える。

 もう定番の掛け合いとなっている感じで、この言葉自体にあまり意味はないような気がする。相手を選んで声をかけているということと、選手との信頼関係のうえに成り立っているものだということをここに記しておきたい。