ホワイトカラーの「名もなき仕事」が
ますます消滅していく

 この怖い話、どこからお話しすればいいか迷ったのですが、日本人にわかりやすい切り口としてDX(デジタルトランスフォーメーション)をきっかけにそのストーリーをお話しします。

 私は周囲の経営者からよく、「DXというけれど、これまでのIT化と何が違うんだ?」という疑問を投げかけられます。「デジタルで業務を抜本的に見直す」といったような話は1990年代からいつも言われてきましたし、製造業の経営者から見れば工場の自動化はずいぶん以前に完成しています。今さら何がデジタルで変えられるのかという疑問です。

 そういうときに私は、「今、流行のDXでなくなるのは“名もなき仕事”が多いんですよ」とお答えしています。

 zoom会議を例にとると、たとえば大企業の本社ビルでは社員が会議室へ移動するという仕事が消滅しています。会議の開始時間の10分前になるとPCをシャットダウンして離籍する。会議が終わると10分かけて席まで戻り、5分かけてPCを立ち上げる。そんな仕事がzoom会議の導入でなくなっています。

 最近増えてきたデジタル申請のおかげで、書類をプリントアウトして封筒に入れて宛名を書いて郵送する仕事も減ってきました。DXの効果というのはこういう細かい部分に生まれて、重複作業、すり合わせコスト、ナニナニ待ちコスト、移動コストといった名もなき仕事を消滅させていきます。

 DXはツールとして見るとスマホやパソコン、監視カメラや3Dプリンター、ドローンや配膳ロボットといった安価なツールで構成されます。これらのデジタルガジェットのおかげで「確認する」とか「届ける」といった仕事も、いろいろな局面でなくなっていきました。そしてこのITガジェットリストについ最近、新たな部品が加わったことが話題になっています。

 アメリカのIT最大手のマイクロソフトは、人員削減とは別にITベンチャーのオープンAIに1兆3000億円を投資すると発表しています。このベンチャー企業が開発しているのが、今話題のChatGPTというAIです。