「勝利至上主義」の弊害

 それがうかがえる調査がある。NHK放送文化研究所の『人々にとっては“東京五輪・パラ”とは何だったのか〜「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」より〜』によれば、大会後に「盛り上がりは一時的なことに過ぎなかった」と回答した人はなんと65%にのぼった。

「スポーツへの関心が高まった」という人は46%と半数にも満たず、「競技場でスポーツ観戦したくなった」は24%、「スポーツ中継が見たくなった」も21%にとどまっている。

 つまり、日本人が盛り上がっていたのは、「史上最多の58個のメダル獲得」であって、それぞれのスポーツへの関心が盛り上がっていたわけではないのだ。

 そういう日本人の「勝利至上主義」の弊害は、わかりやすく競技人口にも出ている。東京2020開幕から1年経過した今年7月、NHKが大会に参加した競技団体に競技人口がどうなったのかアンケートを行ったところ、「増加した」という回答は21%にとどまった。「変わらない」が56%、「減少した」が18%で、合わせて70%以上が成果を感じていないという回答だったのだ。

 これこそが、今回のWBCの優勝に便乗して「世の中を元気に」「これを景気回復の起爆剤に」なんて叫ばない方がいいと考える最大の理由だ。

 スポーツに社会へのプラス効果など余計な欲をかくと、「勝利至上主義」が強まるだけでロクなことにはならない。特に一番の「実害」を受けるのは、他でもない子どもたちだ。