上場前夜「JERA」大解剖#5JERAグローバルマーケッツ提供

火力発電、燃料の上流開発、再生可能エネルギー、水素・アンモニアのバリューチェーン構築……。JERAの事業は多岐にわたる。だが、足元の堅調な業績をけん引するのは燃料トレーディングだ。特集『時価総額2兆円!? 上場前夜「JERA」大解剖』(全8回)の#5では、世界でも指折りの規模で液化天然ガス(LNG)トレーディングを手掛ける子会社、JERAグローバルマーケッツの葛西和範CEO(最高経営責任者)を直撃。グローバルで資源獲得競争が激化する中でも、JERAが“勝てる理由”に迫った。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

国内LNG危機だった2022年度は
600万~700万トンの追加注文に対応

 東京電力ホールディングス(HD)と中部電力の合弁で設立された燃料調達・火力発電会社、JERA(ジェラ)。非上場で日本最大の発電会社だ。

 その子会社でシンガポールに拠点を置くJERAグローバルマーケッツ(GM)は、世界的な液化天然ガス(LNG)トレーディング会社として知られる。GMはLNGのみならず、石炭のトレーディングも手掛けている。

 一言で説明すると、GMの取り組みは「アセット・バック・トレーディング」と呼ばれるものだ。一般的にLNGや石炭は、購入はたやすくとも販売にノウハウが必要となる。ただ、GMは長期の安定的な顧客である親会社のJERAに対する供給というアセット(資産)を背景に、有利な立場でトレーディングができるのが特徴だ。

 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻で、世界の燃料市場は大混乱に陥った。日本でも同年の夏から秋にかけて、ロシアのサハリン2からのLNG調達が途絶えるリスクが浮上。エネルギーの安定供給を巡り国民の危機意識も高まった。

 この日本のピンチに、LNGの在庫を手厚くして備えたのがJERAだった。JERA関係者はこう振り返る。「GMでなんとか集めた。これがなければ、大規模なエネルギー危機が起きていた可能性がある」

 ウクライナ危機以降、GMはどう動いていたのか。今回、GMの葛西和範CEO(最高経営責任者)がダイヤモンド編集部の単独取材に応じた。

「われわれは実は昨年度、JERAから100カーゴ以上の追加注文を受けて、調達した」。葛西氏はそう明かす。100カーゴとは重さでいうと600万~700万トンに達する。国内大手ガス会社の1年間の取扱量に迫るほどの、とんでもない量である。

 次ページでは、葛西氏への取材を基に、ウクライナ危機以降のGMの具体的な動きを明らかにする。また、グローバルで資源獲得競争が激化する中でも、GMが勝てる理由とは。GMが持つ「強み」を徹底解説する。