[激変]生保・損保・代理店 保険大国の限界#21Photo by Yoshihisa Wada

損害保険業界トップの東京海上日動火災保険。他の大手が保険事業で赤字に転落する中、1000億円を超える利益をたたき出した。ただし足元では災害や事故が頻発しており、決して余裕のある事業環境ではない。特集『[激変]生保・損保・代理店 保険大国の限界』(全22回)の#21では、コスト構造や代理店施策の先行き、コンプライアンス問題などについて、広瀬伸一社長に展望を聞いた。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)

厳しさを増す事業環境
代理店網も問題噴出

 損害保険業界の盟主である東京海上日動火災保険。2023年3月期決算では、本業である損害保険事業の収支(保険引受利益)で1165億円をたたき出し、収益悪化に苦しむ他社を圧倒した。

 とはいえ、先行きを楽観視することはできない。損保業界を取り巻く事業環境は、厳しさを増すばかりだ。

 実際、自然災害の頻発化と激甚化により、保険金支払額は高止まりしており、火災保険の収支は269億円の赤字だ。業績を支える自動車保険でも、自動車部品の値上がりや自動車修理工場での人件費上昇で支払保険金が上昇傾向を続け、収益性の悪化の要因となっている。

 懸念材料はそれだけではない。大手損保は主力の自動車保険と火災保険の販売を代理店に委託しているが、その代理店販売網で問題が噴出している。

 その一つが、昨年夏ごろに明らかとなった中古車販売大手のビッグモーターの保険金不正請求問題だ。同社は、損保各社にとって膨大な自動車保険を販売してくれる有力代理店の一つだ。そのため、不正請求問題が損保各社の代理店に対するガバナンス問題に飛び火している。

 また、損保各社が収益性向上のために行っている代理店網の効率化策や、代理店の規模や増収率を点数化して手数料を支払う手数料ポイントについても、代理店からは相変わらず不満の声が絶えない。6月20日には、東京海上日動の社員主導で企業向けの火災保険料を事前に調整していたことも発覚し、特別調査委員会を設置する事態となっている。

 人口減少や自動運転の普及など事業環境の激変が予想される中で、現在の損保の流通網はどのように変化するとみているのか。いかにしてガバナンスを向上させ、収益を確保していくのか――。東京海上日動の広瀬伸一社長に話を聞いた。

市場の見通し、コスト削減策
代理店施策について直撃!

――今後、損保の事業環境はどのように変化するとみていますか。

 お客さまの価値観やニーズが大きく変化してきています。それは二つあって、一つはデジタル化です。多くの方がオンラインで物やサービスを買う中で、当然われわれはそうしたニーズにも応えていきます。