日本から届いた
11個の桃の瓶詰と11本の菊の花

 校門の周りに広がる花や桃の瓶詰、ミルクティーの海の中には、日本から届いたのもあった。中国にいる友人に頼んで、11個の桃の瓶詰と11本の菊の花を届けさせた人物がいるのだ。

 その人の名は、李小牧さん。中国湖南省の出身で、来日35年、歌舞伎町の真ん中で「湖南菜館」を営み、「歌舞伎町案内人」の異名で知られる。作家、ジャーナリストとして活躍するかたわら、4月の新宿区議会議員選挙にも立候補していた人物だ。今回、彼のこの行動がSNSで話題となり、在日中国人のコミュニティで注目された。どうしてそこまでしたのか、李さんに会って、話を伺った。

李小牧さん李小牧さん(著者撮影) 拡大画像表示

「自分の気持ちを素直に伝えたかった」と李さんは話し始めた。「今回の事故は明らかに人災だ。2008年の四川大地震の時も、崩壊した建物で一番多かったのは、学校だった。そのために5000人以上の子どもたちが下敷きになって亡くなった。その教訓がまったく生かせていないのだ。それに対して、日本の小中学校は(災害時の)避難場所として使われるほど頑丈に造られている。

 人災なのに、保護者らは政府に訴えることができない、逆らえない。彼らにできるのは、自分を責め、校門の前でひざまずいて泣くだけだ。そして、なぜこのことが国民の最大の関心事となったのか、なぜ、これまで見たこともないほど大規模な献花と追悼を行ったのか。それは国民の一人一人にとって、決して他人事ではなく、“明日はわが身”と思うからだ。追悼活動という唯一できる手段を通して、国民は政府の対応に怒りを表しているのだ。

 僕は一人の人間として、声を出し、発信していくという決心で花と桃の瓶詰を届けた。1人の声では弱いかもしれない。10人、100人、そして、もっと多くの人が参加してくれたら、きっと大きな声が届く、大きな力になると確信している。誰がこの事故の“真犯人”なのか、事の本質を追究しないと、また同じ悲劇が繰りされる」(李さん)

李さんが中国国内の友人に頼み、中学校へ届けてもらった11本の菊の花(左)と11の桃の瓶詰(中)。彼の名前が記載された伝票には哀悼のこどばがプリントされていた(右)李さんが中国国内の友人に頼み、中学校へ届けてもらった11本の菊の花(左)と11個の桃の瓶詰(中)。彼の名前が記載された伝票には哀悼のことばがプリントされていた(右)。写真はすべて李小牧氏提供 拡大画像表示

 7月末、生徒たちが亡くなって初七日もまだ終わっていないのに、校門前の献花や贈り物はすべてきれいに撤去された。まるで何もなかったかのようだった。そして同じく7月末から8月頭にかけて、福建省を直撃した台風5号の被害、この台風がもたらした北京の記録的な大雨と大洪水の話題で、今、中国のネットはもちきりになっている。北京の洪水被害もまた、治水事業の失敗による「人災」という指摘が広がっている。人災による国民の犠牲、政府への怒り、しかし何もできない無力感……同じようなことが、中国では頻繁に繰り返されている。