「言語化・体系化」よりも
「人に会うこと」を大事にしたい

糸井 佐宗さんの『直感と論理をつなぐ思考法』や今回の『理念経営2.0』で書かれているのも、「どうやって詩とマーケティングを行き来するのか?」ってことだった気がしたんですよね。

佐宗 そういう読み方をしていただけたのは初めてですがうれしいですね! 糸井さんご自身は、詩とマーケティングをどうやって両立されているんですか?

糸井 この2つの行き来をいちばん学べるのは、「人に会うこと」ですよね。人間の中には、詩もマーケティングも、言い換えれば夢も欲も全部入っている。何かをどうしてもやりたくて理屈に合わないことをやっている人もいるし、怖そうなギャングもお孫さんの前ではいいおじいちゃんだったりするんです。人間の中にさまざまなものが丸ごと入っているから、それを無理に整理したりせずに、まるごと「へー」って感心していると、自分自身ができていく気がして。ぼくはいろんなことを言語化して体系化すること以上に、「人に会うこと」のほうを重視しよう、と。どこかのタイミングでそう決めちゃったような気がしています。

佐宗 それは今、とても大事なことなんでしょうね。自己紹介のときに会社の役職名を言う人がいるぐらい、長らく「仕事=自分」という価値観が主流でしたけれど、本当はそうではないんですよね。料理をつくっているときも自分、子育てをしているときも自分。ぼくが経営しているBIOTOPEという会社は20代の若い社員がたくさんいるのですが、たとえば「会社のミッションに共感しているけれど、イラストを描いてコミケに出したい自分も大事にしたいです」というような社員がいるんです。

糸井 うんうん。

佐宗 ただ、その人の全体性を会社がすべて受け止め切ることはできない。だからこそ、会社は会社で、自分たちのキャラクターや企業文化や価値観などをしっかりと打ち出していかないといけない。そのうえで、それぞれの社員は、会社にいるときはそれに合った自分の一面を出してもらい、他の面に関しては他のところでバランスをとってもらうのがいいのかなと思っているんです。糸井さんは、この点に関してはどんなことを考えていらっしゃいますか?

糸井 理念って、言葉として掲げられますし、物語性も高くなりますから、どうしても人の興味が集中しやすくなります。

 でも、それは「脳にとってはそうだ」という話でしかなくて。これだけだと、詩とマーケティングの両立にはならないと思うんですよ。やっぱり「肉体」がベースにあってほしいと思うんですよね。

佐宗 釣りの楽しさのお話ですね。「脳」だけだと、釣りの楽しみである「詩」が忘れ去られてしまう。

糸井 ぼく自身、理念だけで縛った集団にちょっと触れて、懲りているというのもありますが、「お前は理念に一致していないからダメなんだ!」って言われているような組織にぼくはいたくない。

 鳥だって、同じ赤い鳥が群がっているように見えても、近くで見たら違う色のがまぎれていたりしますよね。その鳥自体の羽それぞれにも、いろんな色が混じっていたりする。固定した理念で縛るよりも、「群れとして守れる範囲のギリギリのところ」で一致していることのほうが、大事なんじゃないかなと思っています。

【糸井重里さん「理念経営」を語る】「仕事には『詩』と『マーケティング』が必要だ」

(第2回に続く)