日本の競争力強化につなげる大チャンス

 国内で先端分野への投資が増えていることが、明るいニュースであることは言うまでもない。ぜひともわが国経済の競争力の回復につなげたいところだ。

 TSMC進出に伴い、熊本県の雇用機会や土地のニーズも高まっている。人の往来が増えれば飲食や宿泊、交通などサービス業も盛んになり、地元では資金需要も盛り上がっている。また、熊本大学や久留米高専は半導体人材教育の強化に取り組み始めてもいる。

 こうしたうれしい変化が起きているのも、従来、わが国には世界的な競争力を持つ素材、工作機械、半導体関連部材メーカーが多いからである。純度99.999999999%(イレブン・ナイン)のフッ化水素や、半導体の基盤であるシリコンウエハー、チップをケースに入れるのに使われる封止材や回路形成の部材など、日本企業の技術力やものづくりパワーは健在だ。

 総合科学最大手の三菱ケミカルグループは25年3月期の稼働を目指し、国内に半導体材料の新工場を建設するもよう。超高純度の部材メーカーと連携を強化することが、より高性能の半導体、人工知能、量子コンピューティング、次世代の高速通信の実用化に欠かせない。

 TSMCの他に、米インテルもわが国企業の技術力に注目しているようだ。16年、インテルは10ナノメートルチップの製造ライン立ち上げに失敗した苦い経験がある。インテルはTSMCの製造技術に頼りつつ、日米欧の3極で安定した事業運営体制を確立しようとしている。また、同社は、チップのケース封入などの分野で日本企業との関係強化を図っている。

 半導体、関連部材、製造装置メーカーとの関係強化を目指し、海外のIT先端企業がわが国に投資を行う。この需要増加に対応するために、国内企業も設備投資を増やす。「投資が投資を呼ぶ」好循環の兆しがみられる。

 今後の展開次第で、わが国に半導体など先端分野の産業が、より多く集積する可能性も高い。政府、関連する民間企業は、この重要な変化を逃してはいけない。より積極的に支援や先行投資などを検討すべきだろう。中長期的なわが国経済の回復に、好影響を与えることを期待したい。