事業にフォーカスして見ると、2020年以降のコロナウイルスの影響が限定的になってきました。良くも悪くもコロナ禍から徐々に抜けて、顧客の価値観が変わったことで、新たなニーズを捉えたサービスが盛り上がっていると感じます。特定領域だけの事象ではないので抽象的な話ですが、短期的な顧客獲得やチャーン防止のHowの議論ではなく、改めて誰にどういった価値を届けるのか?という話に立ち返ることが出来たサービスは強くなった1年だったのではないかと感じています。この正解はまだ今すぐには見えませんが……。

市場トップのシェアを取っている会社にとっては危機であることも、スタートアップにとってはチャンスだという期間だったと思います。

また、皆さんが触れられているかと思いますが、Web3は大きな波のあった1年でした。投資環境という意味で件数、金額ともに激減したのはこの領域です(それでも暗号資産関連事業展開のGalaxy Digitalの発表によると、2022年3QのWeb3スタートアップへの投資額は$5.5Bと依然大きな規模感ではあります)。Web3後進国と言われていた日本で、岸田首相がWeb3を国家戦略として掲げたことや、法人税法上の期末時評価課税の問題への着手が早期になされたことはポジティブな動きとして印象的でした。

もう1つ、加熱しすぎていたところから調整が入った領域という意味ではSaaSがあります。ARRマルチプルが15倍というのも一般的でしたが、2022年は好調なサービスでも10倍で、市場によっては5倍前後というものも多くありました。

2022年に注目した・盛り上がったと感じる領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。

・ネオバンク
トレンドとしてはすでにありましたが、実績を持って日本でも広まりつつあるように感じます。決済、融資などどの領域からアプローチするかは各社各様で、また初期の対象・マーケティングはカップル向け、著名人のファン向け、子供向けなど違いがありました。

・個のパワー
Web3の流れもありますが、加速的に個人へ力が戻ってきています。働き方、コンテンツの所属、SNSや各プラットフォームの使い方など、あらゆる観点から見ても間違いないトレンドです。特に採用のHR領域など、B向けサービスでも、このトレンドを受けて作られているものが多い印象でした。

・ESG投資への関心と対応
上場株式への投資家、上場企業では以前から高まっていましたが、責任投資原則(PRI)によるディスカッションペーパーが発表されたこともあり、2022年に入ってからベンチャーキャピタルでもESG投資に対する向き合い方の関心が高まったと思います。一方で、まだ運用には落とし込まれてはいない印象です。