2023年のスタートアップシーンや投資環境はどのように変化すると予想しますか。
投資環境は、前述の2022年の様子が続くのではないかと考えています。よくベンチャーキャピタルのドライパウダー(ファンドの手元にある資金)は豊富だという話がされますが、それは事実である一方で、株価は活況だった2021年にすぐに戻ることはないと思います。スタートアップの成長の描き方は変わるでしょう。これまで以上に、資本を効率的に使って成長を見せていく必要があり、大型の資金調達の難易度は上がり、二極化することは間違いありません。結果的に見ると、ビジョナル、ラクスル、メドレーといった企業もかつての不況下で生まれたことを考えると、悲観的になる必要はないと感じています。
直近は冬の時代と言われるWeb3業界ですが、この幻滅期を経て、分散化、民主化などインターネットが本来目指した世界を追求してほしいと思います。これは願いを込めてですが、私を含めて、今の20〜30代の起業家はインターネット初期の世界観にユーザーとして共鳴した人が多くいますので、期待しています。
日本政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、さまざまな取り組みを始めました。投資環境という視点では2027年にスタートアップへの投資額を10兆円規模に引き上げると発表しています。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もベンチャーキャピタルを含むプライベートエクイティへの投資額を引き上げる方針を公表しています。スタートアップ業界にとっては非常にポジティブであり、日本のスタートアップ業界も漸く認められる水準に達したということです。
ネガティブなことを言うつもりはありませんが、投資家の立場としては、暗号資産取引所のFTXが高い評価額から一転して破綻したことや、2022年に判決が出た血液検査会社セラノスの件は、海の向こうの話と捉えずに、改めて真剣に向き合うべき問題だと感じています。
領域やプロダクトは短くても数年単位で考えられるため、1年単位で取り上げることが難しいのですが、次の項目でキーワードとしてまとめてみたいと思います。
2023年に注目する・盛り上がると考える領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。
・SaaSの二極化
加熱しすぎていた状況から調整がなされた2022年ですが、引き続きのトレンドだと思います。SaaSというビジネスモデル自体は優れていますが、さまざまなサービスが世の中に生み出され、DXも徐々にバズワードではなく本質を捉えられるフェーズになりました。業務効率化だけでは提供価値が乏しく、その次にどのような価値が提供できるかを問われています。端的にいうと単価向上をどのように作れるか、です。その過程として、エンタープライズSaaSのプロフェッショナルサービスは「ビジネスモデルとしてはコンサルのよう」と不人気に捉えられがちですが、顧客の課題を正しく把握できるので鍵になるように感じます。