日本の2022年の投資環境について1つ特筆したいことは、スタートアップエコシステムのメインストリーム化です。エコシステムは毎年盛り上がってきているのですが、2022年は政府発表や報道から「スタートアップ」という言葉を聞くことが圧倒的に増えました。大手銀行がスタートアップに対する貸付で経営者保証を求めなくなったり、さらに身の回りでも「VCが人気の職業になってきた」という話をちらほら聞いたり(本当かどうかはわかりません……)、いろんな局面で潮目が変わってきたと感じる年でした。

2022年に注目した・盛り上がったと感じる領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。

・Web3に対する評価
FTXの破綻や暗号資産市場で起こっていることは一旦置いておいて、世界観としてのWeb3について。Web3は日本でも米国でも、2022年のテック業界では大きな注目トピックだったと言えるでしょう。ただ、日米比較で感じたのは、その表立った評価の多様性の違いでした。

米国では2022年初期から技術者を中心に、ブロックチェーンの技術的な限界について、むしろこの技術は「分散型社会」を実現するのには逆に不向きなのでは、という声がTwitterや主要メディアで発信されていて、熱く健全な議論が交わされていました。日本でも、注目トピックとしてのWeb3の存在感は米国同様に大きく、オフラインでは熱狂的な技術者と懐疑的な技術者の議論も、身の回りで交わされました。

ただ日本では、ブロックチェーンの得手不得手についてのオンラインでの発信や、米国のように切り込んだメディアはあまり目にしなかった、というのが印象です。メディアの性質の違いも含めて、テックトレンドについてオンラインの空気が日米で違うトピックの1つとして注目しました。
 
・Twitterとイーロン・マスク
これが象徴しているのは、10年以上続いたシリコンバレー文化に対する挑戦です。フリーランチやヨガクラス、働き方の多様化や従業員の人権運動を支援するなど、リベラルな若者をひきつけるのに欠かせないと多くのCEOが思っていた企業文化は、シリコンバレー外の、伝統的な企業にまで広がりました。

イーロン・マスクはテック市場が調整中のこのタイミングで、タブー視されていた悪ボスぶりを発揮(大量レイオフ、各種福利厚生の撤廃、猛烈労働の要求など)し、気が進まないままリベラル企業文化を押し進めていた一部のCEOに喝さいを浴びているとか。CEOとしてかオーナーとしてかに関わらず(執筆時点では辞めていませんが)、マスク配下のTwitterの行方に注目。