※「のれん」とは、M&A価格を決める際、対象企業の純資産額に上乗せされる、同社のもつブランドや技術力、社員の能力や取引先との関係などの無形資産の評価額のこと。M&A後、通常5〜10年かけて償却処理されるが、この償却額よりもM&A先の生み出す利益が下回っている状態を「のれん負け」と言う。
及川:SHIFTさん、IRにもすごく力を入れていらっしゃいますよね。周囲のスタートアップでもIR資料を参考にして「SHIFTのような戦略です!」と言う企業が増えてきたように感じています。
丹下:恥ずかしいくらいにすべてをさらけ出して開示していますね。「すべてを隠すことなく、とにかく誠実に伝えたい」という気持ちが強いです。
結局、株価が下がれば自分たちの資金調達だってしづらくなるじゃないですか。上場する一番の目的ってやっぱり資金調達ですから。あと、SHIFTはグループ会社の経営陣や社員にもSHIFTの株を持ってもらっているから、彼らにとっても株価の下落はデメリットになる。
及川:グループ会社も対象にした株式報酬制度を作り込んでいます。M&Aされた側の社長からすると、株式の売却時が収入のピークになってモチベーションが下がりがちです。ですがその後も成長すれば上場に匹敵するリターンがあるというのは、そんな社長の気持ちを理解し抜かれているように感じています。
丹下:「株式付与ESOP信託(※)」ですよね。頑張れば頑張っただけ、一人ひとりがリターンを得られるように。M&Aってみんなが幸せになるためにやることだと思っています。
※ESOPは、Employee Stock Ownership Planの略。発行会社が資金を拠出しESOP信託が株式を取得、一定の要件を満たす従業員に交付する。SHIFTでは2016年に導入、2021年にはグループ会社へ対象を広げた。
そういう仕組みを実現するためにも、適正価格でM&Aすることがまず大前提ですよね。そこから逸脱しないように、SHIFTでは「EBITDA倍率が8倍以下」というような譲受価格の基準を設けています。それがあるから、逆に必要以上に買い叩くようなこともしない。
及川:「安ければ安いほどいい」という価格の付け方をすると、M&A後の関係性もなかなかフラットにはなりづらくなり、完全な「親子」関係になってしまいがちです。そうすると、先方の経営陣がやる気を失ってしまったりします。