――起業の経緯を教えてください。

 父親も起業家で、小学生の頃には起業を志していました。新卒で就職先に選んだのは三井物産。とりあえず商社で数年経験を積めば、起業の役に立ちそうだと考えたからです。私が新卒で就職したのは1999年。起業するにも、今のようにパスがありませんでした。リクルートですら今のように起業志望者が集まる“ピカピカな企業”ではありませんでした。

 名刺を事業対象に選んだのは、私自身が名刺管理に困っていたから。同時に、名刺管理は非常に大きな課題だと捉えていました。フェルミ推定的に考えれば、世界では年間100億枚の名刺が交換されています。毎日やり取りされている膨大な数の名刺をデータ化できれば、世界中に大きなインパクトを与えることができるはずです。

全く理解されなかった「カスタマーサクセス」

――Sansanを導入している企業は6000社を超えています。

 初期の顧客はIT系のスタートアップや中小企業がほとんどでしたが、近年では三井住友銀行や電通など、大企業での全社的な導入が増えています。Sansanが目指すのは、企業のあらゆる外交記録を管理し、全ての社員が使用するビジネスプラットフォームです。会社全体での導入は大変ありがたいです。

――近年はSaaS企業が増えていますが、Sansanはこうした言葉がない頃からSaaSサービスの開発を続けてきました。

 Salesforceの活動を参考にしながら、手探りで改善を続けてきました。初期から注目している指標は、チャーンレート(解約率)。定額課金が基本のSaaSでは、ユーザーがサービスを長く利用するほど、ライフタイムバリュー(顧客1件ごとにもたらされる生涯価値)は高まります。そのため、解約率は非常に重要です。

Photo by Y.IPhoto by Y.I.

 解約率を下げるために、2008年よりサービス部で顧客獲得のための活動を開始しました。サービスの価値を知ってもらうためには、まず名刺を取り込んでもらわなければなりません。そのため、創業メンバーは客先を訪ねて名刺の読み込み作業をしていました。

 2012年にカスタマーサクセス部を発足し、全ての顧客に対して担当社員を割り振り、サポートしています。正確な調査ではないですが、カスタマーサクセス専門の部署を設立したのはおそらく国内企業で初だと思います。

 その後もオンラインサポートの導入や既存顧客向けの営業チームをカスタマーサクセス部内に組織するなどの拡張を続け、さまざまなデータを一元的に把握できるよう工夫しています。2019年5月期時点で、12ヵ月平均の月次解約率はわずか0.66%です。どれか1つの施策が大きく解約率の低減につながったというよりは、サブスクリプションビジネスのキモを早くから理解し、さまざまな施策を長年続けて顧客の成功を模索し続けたことが現在の結果につながっています。