日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする。(撮影/疋田千里、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)
日本で「大企業」と呼べるのは
世界の基準でいうと90社のみ
徳成旨亮(以下、徳成) 日本は今が最後のチャンスかも知れませんね。2023年11月、日経平均株価は1990年3月以来33年8ヵ月ぶりの高値となりました。世界の投資家が日本株を買いに来ている今はチャンスだと思います。
僕が今CFOを務めているニコンの例で申し上げると、昨年の5、6月に2回も海外にIRにいったんですよ。投資家から会いたい、というリクエストが多くて。9年近くCFO業をやっていますが、こんなことは初めてです。
でも、ここで認識しなければいけないことが1つあります。それは、日本の上場企業は、グローバル基準では、ほぼ中小企業だということです。
MSCIという株価指数があるんですね。世界中の企業を、大企業とか中堅企業とか中小企業とかに分けて、投資をするんです。それで世界において、大企業、ラージ・キャップと定義される線引き的な基準が、138億ドルなんです。つまり、2兆円ほど。それ以上の時価総額がある会社が、大企業とみなされるわけです。これ、調べてみたら日本に約90社しかないんですよ。
日本には約4000の上場企業があります。そのうちの90社しか時価総額2兆円を超えていないということは、残りの98%は中堅・中小企業なんですよ。世界的に言うと。
だから日本の大企業だと言っているおじさんたちも、実はスタートアップの役員とあまり変わらないというふうに自己規定する必要がある。つまり、グローバルな投資家のレーダーにどうやったら映るか、どうしたら投資してもらえるか、JTCの経営者もしっかりと考えないと、株価は安値に放置されたままになってしまう。PBR1倍割れが問題になっていますが、投資家のレーダーにきちんと捉えられていない企業もあるんだと思っています。
堀内勉(以下、堀内) 一点補足しますと、前の記事でお話ししたG型とL型の住み分けのように、自分たちの企業がどのような環境で生きるのか、ということを確認する必要があると思います。
グローバルな世界で戦っていくというのは、ものすごく大変なことです。その中に最初からドーンと打って出て戦うのか、それとも日本の中小企業として細く長く地道な立ち位置でやっていくのか。
たとえば何か日本文化を代弁するような会社をやっていたら、意外に世界からウケるようになった、というようなこともあると思います。グローバルに戦わなくても、文化的な側面からグローバルに求められる、というような。そうするとこちらが英語を喋れなくても、日本文化に興味のある人が、向こうから来てくれますよね。そういう戦い方もあると思います。
もちろんそういう会社は絶対に何兆円などという時価総額にはなり得ません。せいぜい売上が5億円とか10億円だけれども、でも100年以上続いています、そういう生き方もありますよね。G型かL型か、自分たちはどちらで生きていくのか。
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長、一般社団法人100年企業戦略研究所所長、一般社団法人アジアソサエティ・ジャパンセンター理事兼アート委員会共同委員長、ボルテックス取締役会長他。
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、東京大学Executive Management Program(東大EMP)修了。日本興業銀行(現みずほFG)、ゴールドマン・サックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)、アクアイグニス取締役会長等を歴任。資本主義の研究をライフワークにしており、多くの学者・ビジネスパーソンと「資本主義研究会」を主催している。著書に『人生を変える読書』(学研)、『読書大全』(日経BP)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)などがある。