「透明性が低いシステムでは、市民が政治家に影響を与える動機付けがあまりない。その結果、腐敗者は政治家に影響を与えるためにそれほど努力する必要がない。腐敗は広がるが、賄賂の額は低いのだ。一方、透明性が向上すると市民は力を得るので、腐敗者の影響に対してより積極的に立ち向かう。しかし、腐敗者も反撃し、賄賂の額が増える」

「透明性を高めることが悪い政策だと言っているわけではない。透明性が高まれば、政治家がより効率的な行動を取らざるを得なくなるので、期待される厚生が増加する。ただ、透明性の向上は、政治家の権力の影の価値をも高める。腐敗者はその権力に影響を与えるために、これまで以上に多くの賄賂を支払う準備ができているので、期待される賄賂は増加する」

 簡単に言えば、政治家がどんなお金の流れで収入を得て、どんな政策決定をしているかが国民に分かるようになると、不正をしようとする人たちは奮起してさらに頑張ってしまうということだ。当然ながら、裏金キックバックの問題において、国会内でおそらく透明性を高める議論や法改正が行われるだろう。しかし、それだけでは不十分であり、むしろ汚職を広げる可能性があるということになる。

政治とカネの透明性を高めても
完全な情報を把握するのは難しい

 どうしてこのようなことが起きてしまうかというと、結局のところ、政治家についての完全な情報を国民は得ることができないためだ。

 例えば、実際に起きている話としては、政治家が乗っている運転手付きのリムジンが、実はタクシー会社のもので、その会社の取締役に政治家のきょうだいが就任している、といったものがある。その政治家のきょうだいのための社用車であるが、きょうだいが自由に使ってよいことから実態上は政治家事務所の車となっている。わざわざ秘書の車の名義まで確認するメディアはほとんどない。

 また、ある会社が業務委託として契約した人物を、政治家事務所に「無報酬のボランティアスタッフ」として送り込んでいるケースもある。その人物が正社員の場合もあるが、その場合はフルタイムで政治家事務所で働いていることと整合性が取りにくい。一方、業務委託なら簡単な報告を日々するだけで問題は起きないようだ。

 政治家のカネの一部分を透明にしたところで、いたちごっことなって腐敗がなくなっているのかどうかが分からないというのが、私の実感だ。むしろ狡猾(こうかつ)な世襲政治家がどんどん有利になっていくリスクが高い。