「医療保険が破綻しかねない…」菅義偉が明かす“夢の新薬”薬価引き下げの舞台裏筆者(左)と当時の塩崎恭久厚生労働大臣(中央)(2017年3月31日撮影) Photo:SANKEI

「夢の新薬」といわれたものの、高額過ぎる薬価が議論を引き起こしたオプジーボ。安倍政権は薬価の大幅な値下げに踏み切ったが、ここでも官僚からの猛抵抗が存在した。今回は、オプジーボの薬価引き下げが実現するまでの舞台裏を明かそう(肩書は当時のもの)。(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)

“夢の新薬”
薬価引き下げの舞台裏

 オプジーボの薬価について、安倍政権が50%の値下げに踏み切ったのは2016年11月。この問題に取り組んだのは、同年10月、参議院予算委員会での共産党議員の質疑がきっかけだった。

 同じ質疑を聞いていた安倍晋三総理に相談したところ、「官房長官、どんどんやって」と後押ししてくれたことで、一気呵成に値下げの実現にこぎ着けた。

 オプジーボは「夢の新薬」ともいわれ、14年に世界初の免疫治療薬として承認された。これまでのようにがん細胞に直接攻撃を加えるものではなく、免疫細胞に作用して能力を高め、自身の細胞ががん細胞を攻撃できるような環境をつくり出す薬だ。

 日本初の画期的な治療薬として注目され、一部のがんへの効果が高いとされていたが、患者1人当たり年間3500万円超もの費用がかかる高額な治療薬だったのである。

 オプジーボは医療保険の対象であり、患者の自己負担は約3割(約1000万円)、さらに高額療養費制度もあるため実際の支払いはかなり少なくなる。一方で、その結果、仮に5万人が1年間使うとなれば、医療保険からの負担分は1兆7000億円にも上るとの試算も出されていた。

 オプジーボの承認当初は、メラノーマという皮膚がんの1種のみに使途が限定されており、患者数が非常に少ないことから、研究開発費を企業が回収できるように薬価も高額に設定されていた。しかし15年12月に、オプジーボが患者数の多い肺がんにも効果が認められ、適用が拡大された。

 16年に入ると腎臓がんへの適用も開始され、「多くの患者がオプジーボを使うことになれば、医療保険制度が破綻しかねない」との声がますます高まることになった。

 私はこうした議論の経緯から、オプジーボの薬価そのものの引き下げを検討すべきだと考えた。

 医療保険の破綻を免れなければならないのはもちろんだが、そもそもオプジーボは、患者数が少ないという理由で、当初、高額な薬価に設定されていた。患者数が増えれば、それを直ちに反映して薬価を引き下げることが当然であると考えたからだ。

 そこで「オプジーボの薬価を50%引き下げるべきだ」と打ち出した。いきなりの半額である。もちろん製薬会社の反対はあった。薬価が半分になるのだから、価格だけ見れば会社にとっては大問題であろう。

 だが「50%引き下げ」に抵抗を見せたのが、他でもない厚生労働省だった。「現行制度上、25%引き下げが限界」「あまりに急激な薬価引き下げには訴訟リスクを伴う」とあらゆる理由を挙げて抵抗したが、こちらも一歩も譲らなかった。