鉄道事業者が磁気乗車券を
廃止したい理由
鉄道事業者が磁気乗車券を廃止したい理由は、システムコストの高さにある。きっぷを投入できる自動改札機は、投入したきっぷをローラーとベルトで向きを整えながら搬送し、磁気情報を読み取って、パンチ穴を開け、印字してから放出する。これを1秒足らずで処理する精密機械の集合体なので、価格は1台当たり1000万円前後にもなる。
イニシャルコストだけではない。きっぷを物理的に搬送する機構は、券詰まりを防ぐため頻繁に点検・整備が必要であり、メンテナンスコストも高くつく。さらに乗車券には、磁気データを記録可能な特殊な用紙が必要で、回収したきっぷも産業廃棄物として処理しなければならない。
救世主となったのはIC乗車券だった。2001年にSuica、2004年にICOCA、2007年にPASMOが導入されると、その利便性から瞬く間に普及する。近距離利用の9割以上がIC利用になり、複雑な機械を内蔵しないIC専用改札機が増えた。
コロナ禍以降、磁気乗車券利用の多くを占めていた回数券の廃止が進んだが、磁気乗車券がわずかでも残る限り、それに対応した券売機や自動改札機は廃止できない。そこで絶対的にコストが安く、券売機で購入して自動改札機にかざすという、これまでの鉄道利用スタイルに近いQRコード乗車券が注目されたというわけだ。
ただ、JR東日本については新幹線のきっぷなどに用いられる大型の磁気乗車券が存続するため、磁気乗車券対応自動改札機の廃止スケジュールが決まったわけではない。それでもかなりのボリュームを占める近距離券の廃止は大きな一歩である。