みずほ銀行のシステムトラブルで一般にも注目を浴びた「銀行勘定系システム」。実は、そんなトラブルを尻目に、勘定系システムを取り巻く勢力と力学に一大地殻変動が起きている。再編と構造変化の波に揺れる地銀業界を舞台に、ITベンダー新興勢力と既存勢力の壮絶な陣取り合戦が幕を開けた。特集『不要?生き残る? ITベンダー&人材 大淘汰』(全16回)の#1では、その大地殻変動の深層と、勝者と敗者に迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
富士通、NEC、日本IBM、日立など大手が
数年で「ベンダースイッチ」の憂き目に?
4500億円以上を費やしたみずほ銀行の勘定系(預金などをつかさどる基幹業務)システム「MINORI」が前代未聞の相次ぐ障害を起こし、原因究明のための第三者委員会調査が進んでいた2021年5月。みずほ銀行本店から400km離れた石川県金沢市の北國銀行で、みずほとは別の意味で前代未聞の勘定系システムが稼働を開始した。
MINORIをはじめ、全てのメガバンクの勘定系システムはメインフレーム(大型汎用コンピューター:メーカーがソフトウエア、プログラムやアプリケーションを全て顧客ごとに作り込むもの)で運用されている。
ところが、北國銀行の新勘定系システムには、メインフレームどころか自前のサーバ-すら存在せず身軽だ。同行の勘定系が存在するのは、米マイクロソフトが提供するパブリッククラウドAzureの上。無店舗型のインターネット銀行などではない、有店舗型の既存銀行の勘定系システムがクラウド上で動くのは、日本ではこれが初めてだ。
一方、既存の重厚長大なシステムは、大手ITベンダーが銀行ごとに作り込み、10年以上の長期にわたり継続的に仕事を受注していた。さらに、地方銀行の場合はシステムのコスト削減を目的に数行で勘定系システムを共有し、その共同化センターをITベンダーが運営するというやり方が普及している。
現在、地銀の勘定系シェアはトップのNTTデータを筆頭に大手ITベンダーが分け合う構図だ。
ところが、この「岩盤」は近年急速に崩れつつある。その象徴的な「風穴」が北國銀行のクラウド勘定系システムなのだ。これは、いわば現在のIT業界で起こっていることの「縮図」でもある。
つまり、富士通、NEC、日本IBM、日立製作所といった、かつて大手企業のITシステムを長年実質的に支配してきた企業群が、野心的な構想を抱く新興勢力や、これまでの秩序を変える新技術を持つ勢力によって、置き換えられていくという構図だ。
その「システムの入れ替え」が、ドミノ倒しのように加速すれば、大手企業はリストラを迫られ、組織体制や待遇が大きく変容するだろう。
ある理由から、向こう数年以内に大手は「ベンダースイッチ」の脅威に晒されるのが確実だ。こと地銀勘定系に関しては、その新たな構図が描かれる可能性がかなり高い。
そうなった場合、新興だけが強いのか?既存の大手の中ではどの会社に生き残る余地があるのか?全貌を、具体的な勢力図の変動と共に、詳しく見ていこう。